「優希。志穂さんが、息を引き取った。」



 病室から逃げるように帰った次の日。電話で、父さんにそう、伝えらえた。至ってシンプルな言い方。そんな言い方されると、なおさら現実のように思えなかった。今日会いに行けば、また、笑って、「優希」とそう聞こえるような、莉里さんと一緒に笑っているような、そんな気がしていた。でも、それは、もう叶わない。もう、この世界に、志穂さんはいない。


 身体中の力が抜けて、そこからあとは、父さんの話など、耳に入っていなかった。父も、無機質な声で、伝えなくてはいけないことだけを話していたから、なおさら。

 里莉さんからも連絡がなかった。里莉さんが病室に行くなら、俺もいくべきだと思った。でも、里莉さんも同じように動揺して、今頃は、1人で泣いているのかもしれない。里莉さんから連絡が来ることは、なかった。俺は自分から行動するのがとても怖くて、家にいることしか出来なかった。





 1週間後。志穂さんの葬式が行われると連絡があった。「1週間後」か…
 正直、この1週間、ずっと、考え込んで。どうしたらいいか、全くわからなかった。これから1週間経った時に行われる、葬式。気持ちの整理がそれまでにできるとは思えない。でも、散々お世話になった。半年も経ってないとはいえ、仲良くしてもらった。これで、葬式に出ないのも、非常識なんじゃないかと思った。

 それでも、自分から莉里さんに連絡する勇気は出なかった。昔、グレてたくせに、ほんとのところは小心者だなんて、ダサいものだ。情けないとも思う。でも、本当に怖かった。莉里さんに連絡をするのが、正しいことかもわからない。気持ちの整理を邪魔するかもしれない。なにより、今は1人がいいんじゃないか。そう思えてならなかった。



「優希、今日、ご飯は?」
「ごめん、そこに置いといて。後で食べるから」
「わかったわ」
俺はこの1週間、必要最低限しか部屋から出なかった。誰とも顔を合わせたくなかった。次は、誰にパステルカラーが見えるかと、そう思うと、本当に、嫌だった。

 でも、葬式の前日、莉里さんから電話がかかってきた。
「莉里さん...?」
「優希君、久しぶりだね。急に電話かけてごめんね」
「いえ、平気です」
「それで、本題なんだけど。」
そう言って莉里さんは、5分ほど黙り込んでしまった。時々、啜り泣く声が聞こえた。

「志穂のお葬式、一緒に行こう」
「、、はい。行きます」
「高校生は、制服でいいのかな」
「多分そうだと思います」
「じゃあ、いつもの駅に集合ね」
「はい、時間は後で教えてください」
お互いに、長電話はしたくなかったから、話さなきゃいけないことだけを話して、すぐに電話を切った。