「莉里さん、おはようございます。俺、もう駅着いてるんで。待ってますね」
「え、早いね優希君。急いで準備するから待ってて!」
短い会話で通話は切れた。俺は、昨日の夜、髪をもう一度染めた。流石に金髪は恥ずかしかったから、今回は茶髪にした。
 特別な理由があるわけじゃないけれど、莉里さん、志穂さんに向き合うのに、偽りの姿と言うか、本性じゃないのはよくないと、俺なりのケジメのようなものだった。自分の過去をいつまでも引きずっているわけにもいかないし、これを機にというのも失礼だと思うけど、過去にもケジメをつけようと言う決心の表れということにしておく。

「あ、優希君、、、だよね?」
「そうです、俺です、莉里さん」
「あれ、今、俺って」
「色々な事情がありまして。とりあえず、藍沢さんと言う人の家に向かいましょう。連絡はしてくれたんでしたっけ」
「あ、うん。昨日のうちに、お願いがあるので、お家までお伺いしますっていってある」
「なら、急ぎましょう」
莉里さんは、いつもと違う俺で、調子が狂っているようだった。でも、これに慣れてもらわなくては。俺は、もうこの姿を偽るつもりはない。

 車内はまだ朝早いからか人が少なくて、俺と莉里さんの間には、終始沈黙が流れていた。今までなら気まずいとか気にしたのかもしれないけど、お互いに、心の余裕がなく、それどころじゃなかった。莉里さんは、ずっと俯いていて、心なしか、顔色が悪いようだった。
「莉里さん、体調悪いですか?」
「ううん、ちょっと寝不足なだけ」


「莉里さん、どこですか、藍沢さんのお宅」
「えっとね、こっち。あ、地図転送するね。その方が早いよね」
「そうっすね」
俺たちは、一刻も早く、藍沢さんに会いに行って、志穂さんに会わせたい。それを、それしか、考えていなかった。
 だから、何をどう説明しようかなんて、考えてる訳がなかった。
「着きましたけど、、、」
「どうしよっか、今家にいるかどうかもわかんないし」
急いで、慌てすぎていた俺たちは、藍沢さんのお宅の前でかれこれ10分、立ち尽くしていた。
「あの、狛野、さん?」
「あ、藍沢君⁉︎」
藍沢さん本人が買い物の帰りだとかで、自分の家の前に立っている高校生2人をみた時には、きっと驚いただろうが、落ち着いて案内してくれた。

「お茶を出しますから、少し待ってください」
「あの、お茶とかよりも…」
「お茶くらい落ち着いて飲んだ方がいいですよ。お二人ともとても慌てているように見えて、危なっかしいから、落ち着いた方がいい」
そんなに落ち着きがなかったか。でも、こういうところに気づいてくれる、一つ年上なだけ、とは思えないほどだ。志穂さんが好きになったのも、なにか納得がいく。

「それで、お話というのは?」
「あの、志穂に会ってもらいたいんです」
「志穂、、ああ、坂野志穂さん?」
「はい。志穂さんが、久しぶりに藍沢さんに会いたいと言っていたので」
「、、わかりました。今日行きますか?」
「えっと、」
「はい、お願いします。今日はもう、ご予定ないですか?」
「はい、特に何も」
「なら、お願いします」
なにか、ただならぬ事情があると察してくれたのか、そうでないのか。今日、という提案を向こうからしてくれるとは、思ってもみなかった。