「え、?どういうこと?」
「やっぱり、」
『え?』
あ、やばい。つい、思ったことが口に出ていた。
「優希、気づいてたの?」
「、、、説明します。信じてもらえないかもしれないけど。話し長くなりますけど、大丈夫ですか」
「うん、いいよ。聞く」

 僕は、小さい頃の話から始めた。
「僕は小さい頃、確か小学4年生とかだったと思います。僕、こんなに暗くなくて、普通に友達もいたんです。仲良かった友達のうち1人の胸の辺りに、ピンク色の水たまりのようなものが見えたんです。それを何かと思って伝えたんです。でも、気のせいじゃないかと言われて、その話は気にならなくなったんです。でも、その1ヶ月後くらいに、その子病気で亡くなったって聞いて。僕は怖くなって、祖母に相談しに行ったんです。僕の両親は仕事が忙しいことが多くて、僕はおばあちゃんっ子でしたから。それで相談したんです。死んじゃった友達の胸の辺りに水たまりが見えたんだって。そしたら、祖母は言いました。「あぁ、優希に受け継がれたんだね」って。」
「じゃあ、その水たまりのようなものが、志穂の胸にも見えてるってこと?」
恐る恐る聞いてくる莉里さんに、この事実を伝えたくないと、思った。黙っていられたら、知らせないでいられたら、どんなに楽かと思った。でも、それは僕が楽なだけ。志穂さんは勇気を出して、僕たちに命が残り少ないと打ち明けたのだ。僕が自分の楽さを考えている場合ではない。
「そうです。でも、志穂さんのは水色です」
「色は、何か違うの?」
「もっかい、話に戻りますね。祖母によると、祖母も、僕と同じ力を持っていたみたいなんです。歳をとると衰えるとかで、見える時と見えない時があるようなのですが。それで、色はその時の感情を表してるみたいです。祖母が言ったんです。「その子の色はピンクだったんだね。じゃあ、きっと、楽しく過ごせてたんだろうね。気に病むことないさ」って。それで、志穂さん。なにか、思い残したこととか後悔してることとか、そういうのありませんか?じゃないと、水色にはならないはずなんです。きっと、何かが.....」
「そっかぁ。優希にはお見通しってことかぁ」
そっかそっか、と言って、考え込む志穂さんの横顔が今にもなくなってしまいそうで。夕焼けに溶けて消えていってしまいそうな不安に駆られた。
「実はね、ほんとに人に言うの初めてなんだけど。中学の時に好きな男の子がいたの。クラスの中でも目立つかっこいい人でね。とても、告白する勇気なんてなかった。仲のいい友達、のまま卒業しちゃって、高校は離れちゃった。どうせ死んじゃうなら、好きだって言っとけばよかったなぁって。最近後悔してたの。うわぁ、何気に恥ずかしいな」
莉里さんが泣きそうになっている。当たり前か。
「それ、私も知ってる人?そのはずだよね」
「うん。覚えてる?藍沢君って。その時の私たちの年齢にしては少し大人びて見えたけど、実は子供っぽいんだよなー。懐かしい」
「!藍沢君のこと好きだったの?全然気づかなかった〜。それで、藍沢君の連絡先、わかるの?」
「うん、連絡先は交換したよ。けど、連絡する勇気がなくて。柄にもなく緊張しちゃってさ」
「私にも連絡先教えて!絶対に連れてくる!死んじゃダメなんだから、絶対。ダメなんだから」
「ねえ、泣かないでって言ったじゃん」
莉里さんは、我慢してたのが溢れてしまったように、ドバーッと泣き出した。泣いてる姿は、普段からは考えられないような、普通の、ごく普通の女の子だった。学校で人気者の狛野莉里は、今、完全にいなくなっていた。

「僕も行きます。その、藍沢って人、探しに行きます。莉里さん、明日空いてますか?」
「‼︎うん、空いてる。もちろん行くよ。志穂、無理しちゃダメなんだからね。ほんっとに、、!」
これ以上はまた泣いてしまうと思ったのか、それだけ言うと、一足先に病室を出ていった。

「志穂さんの病気、治らないんですか。」
「そうなんだよ。中学くらいに病気になっちゃって。ちょうど、中学が1番苦しかった。この仲のいい人たちの中で、自分だけ真っ先に死んでしまうのかと思うと怖かった。でも、そんな時に同じクラスになった、藍沢君と。別に、藍沢君に病気のことを打ち明けたわけじゃないし、理解してもらえたとか、そう言うわけじゃないけど。藍沢君といた時は、本当に楽しくて、病気も忘れられた。高校に入ってからは、莉里がその穴を埋めてくれた。親友を穴埋めみたいに言うのも気が引けるけど。」
志穂さんがこんなに喋るのはほんとに珍しいことだった。
「お大事に」
それだけ言うと、僕も早足で病室を後にした。






「お父さん!坂野志穂って、病院にいるでしょ」
僕は帰って早々、お父さんを問い詰めた。お父さんは知ってるはずだったのだ。勤めてる病院なのだから。
「いくら身内でも、個人情報を漏らすわけには、、って、そんなことを言っても聞かなそうだな。いるよ、坂野志穂さん。お父さんが直接担当しているわけではないが、時々廊下ですれ違うと、話をしたりもする。」
やっぱり、、、!
「お母さん!なんで言ってくれなかったの。志穂って名前出してたから、お母さんだって知ってたはずなのに、、。しかも、僕にパステルカラーが見えるって知ってたでしょ。おばあちゃんから話を聞いたでしょ」
お母さんは何も言ってくれなかった。
「母さん、俺は、また、また!大切な人を知らないうちに失うところだった。目を逸らしたまま、後悔するところだったんだ!気づいてたんなら、言ってくれればいいじゃないか!人任せなのはわかってる。だけど、だけど、、!」
「優希、。落ち着いて。今からでも遅くない。その子のためにできることをしてあげればいい
んだから」
「っ!わかってるよ、そんなこと」

中学の時に戻ったみたいだった。あの時の後悔は2度と繰り返したくなかった。明日、莉里さんと、藍沢さんを探しに行く。

 俺は、2度と後悔したくない、しない。