「けんちゃん、また蝉が倒れてるよ」

 目的地に行く道中、少し先を歩いていた彼女が振り返ってそう言った。
 
 「そっか、夏ももうすぐ終わるんだな」

 目の前まで行き、必死に生きた彼に、そっと手を合わせた。
 
 彼にとっては人生がどんなものだったかはわからない。
 だけど、生きた証に胸が温かくなった。


 もう、うるさい、だなんて思わないよ。
 
 
 「ねぇ、早く行くよ」


 「おう」

 彼女の呼ぶ声に答えて、もう一度手を合わせる。


 
 



 __俺はもう逃げないよ