「あのね愛梨、私、思い出したんだけど」
「思い出した?」

 と言って愛梨はうつむいた。

「ごめんね。私だけがこんなふうに助かっちゃって、しかも逃げるように東京に来ちゃって、本当にごめんなさい」

 アスファルトには涙の小さな雨粒が降った。

「でも、こんなふうに元気な愛梨に会えて、ホント良かった」

――愛梨が言ってる意味がぜんぜんわからない。

 パニックになりそうだった。

「愛梨、どういうこと?」
「下に木がたくさんあって奇跡的に助かったけど、私は骨折だけですんだのに香穂は植物人間になちゃってずっと眠ってるって聞いて、私、怖くて、ずっと会いに行けなかったの」

――植物人間?

「ごめんね香穂、本当にごめんね」

 泣きじゃくる愛梨の横で私の記憶が完全に戻ってきたのだった。