あの幼子と再会した時、自分がいつになく喜んでいること知った。

まだ父や姉の元で、弟子として祓い師の修練を積んでいた頃のことだ。
依頼をもらい向かった家には、変わった子供がいた。
はるか昔に薄れたはずの祓い師としての力を持って産まれてきたその子供は、話に聞くよりも大人しくて無垢な子供だった。
大人たちが難しい話をしている間、そこへ入れて貰えない俺の服の裾を引っ張って、遊んでほしそうにしていたので遊んでやった。
子供は、最近お母さんの元気がなくてかなしいと唇を尖らせて言ってくるものだから、お前の母親はもう長くないなどと本当のことは言えなかった。

その代わりに、ささやかでもこの子供の支えになるようなものをあげたいと思った。

自分なりにこの小さな生き物の未来を祝福してあげたかったのかもしれない。
理由はなんにせよ、それほど上手くない護符を、その名と同じ植物を添えて作ってあげた。
子供は嬉しそうにありがとうと言い、その小さな顔に万遍の笑みを浮かべてくれた。


それから十数年程経って、帝都の街を歩いていた時のこと。
懐かしい気配に惹かれて向かった先には、あの日の子供が成長した姿があった。
俺自身も、祓い師と純喫茶の店主というちょっと変わった職業を得てからしばらく経った頃だ。
子供は俺の事など覚えていないだろうと思ったが、その手にはあの時の栞もとい護符があった。

やけに思い詰めた顔をしているものだから、我慢できずに声をかけてしまった。
案の定、仕事を失い路頭に迷っているというのだから、すぐさま店に連れ帰って女給として雇った。
同業者の椿から、「お前は時々、突発的に振り切ったことをするから困る」と言われた時はそんなことはないだろうと強く否定したが、あながち間違いではなかったかもしれない。

ともかく、沈みきった顔をしている少女に昔のように笑って欲しいと思い、あれこれと面倒を見た。
しかし、少女は人に頼ることがあまり得意ではないようでいつも遠慮がちだった。

自身が彼女に恋心を抱いていることに気がついてからも、彼女の為になにかをしたいと色々手を尽くしてはいたが、中々少女の疲弊した心を溶かすことはできなかった。

そんな矢先、道端で堕ちた神を拾い取り憑かれるなどと誰が想定しただろうか。
正直、神に頼ろうとするぐらいなら俺に頼れと言いたくて仕方がなかった。
祓い師である自分と普通の人間である少女では生きる道が違う。
だから、自分の私情は出さずに少女のことを見守る。
そう決めたばかりのことであったから、尚更苛立った。

何故、彼女のような心優しい人ばかりが理不尽な目に遭うのか。
そう思えば、自分の隠していた仕事について知られても構わないからなんとか救いたかった。

その結果として、無事に事は解決したものの結局祓い師のことについては知られてしまうこととなった。
だが予想外にも彼女は自分のことを恐れるどころか感謝までされてしまうとは。
一体、どこまで彼女は優しいのだろう。

堕ちた神さえ縋るような美しい心を持つあの少女を、離したくはない。
この感情は、恋というには昏すぎるだろうか。