「怜ちゃんにも手伝ってもらって、かなり進んだなあ」
「いいえー。それにしたってサエとナナカ、最後までやらないで帰るなんて無責任ったらないわ」
「いいのいいの。本来は展示係で片付けるべきことなんだから」

 手伝いを放り出して途中で帰った同じ舞台発表のメンバーにあたしが憤慨していると、葵はそんな(なだ)めるような言葉を投げてきた。もっとも、あたしだって葵が展示係じゃなきゃわざわざ手伝ったりはしなかった。
 サエとナナカは、他のクラスにいる彼氏の作業が終わったから……と、あたしにこっそり耳打ちして出て行った。あんたは独り身だからちゃんと手伝って帰んな、という裏側のざらめいたメッセージが透けて見える気がした。余計なお世話だ。あんたらを台車に縛りつけて電飾をくくりつけて行灯行列してやろうか。彼氏とやらもセットで。
 そういえば―――。

「葵、今日は黒元くん、一緒じゃないんだ」
「うん……そのことで、今日は怜ちゃんに相談したいの」
「だから、一緒に帰ろうって誘った?」
「ごめん。わたし、ずるいね」
「ずるくないよ、最初からわかってたし。あたしたち、もう何年の付き合いだと思ってんのさ」
「ありがとう」

 そう言った葵の顔に浮かんだ微笑みにどこか冷たいものを感じて、そろりと訊いた。

「そんで、どんな相談なの」
「あのね。……わたし、彼と別れた方がいいのかなって」

 は?

 思いつめた表情になった葵と対照的に、あたしは鳩が豆鉄砲を食らったような表情になっていた気がする。

「どうして。まだ付き合って一ヶ月ちょっとでしょ」

 言いつつも、まあ高校生カップルの恋愛なんて所詮そんなもんだとも思う。高校なんて場所で、結婚という世間大多数の人間が思い浮かべる「区切り」まで添い遂げる相手が見つかる確率など、下手すれば交通事故に遭う確率より低いはずだ。いいじゃんもうとっとと次に行こうよ、と笑いながら肩をばしばし叩ければ、どれだけ楽だろうか。
 けれど、今はそうもいかなかった。あたしが喉から手が出るほど欲しくても手に入れられないものを、たかだか暦がひとつ動いた程度で手放すなんて、一体どういう了見なのか。それがあたしにとって、どれだけ贅沢なことなのか解かってる? 現代に蘇った「どうだ明るくなったろう」かよ。
 禍々しい光を放ちはじめた感情を胸の奥にしまったまま、あたしはさらに訊ねる。

「なんか嫌なことでもされた?」
「その……わたし、男子と付き合ったの、黒元くんが初めてだからわからないんだけど」

 言い淀む葵のようすを眺めながら、あたしは頭の中で枝分かれする可能性のうち、ひとつをつまみあげる。きっとそういうことじゃないかな、という可能性。

「葵、彼とどこまでした?」
「どこまで?」
「んー、じゃあ訊き方を変えるよ。……手は繋いだ?」
「うん」
「キスは?」
「……うん」 

 へえ、なかなか熟れるまで早いね。
 あたしは胸の中だけで呟いた。