<1番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください>

 ピンポンピンポン、とチャイムが鳴りながらドアが閉まった。今日もある程度の余裕を持って電車に乗ることができた。あとは時が来たら、同じようにこのドアをくぐればいい。
 電車の乗り換えはとても簡単なのに、人生のレールを乗り換えるのは困難を極める。こっちに行けばこの先こうなる、っていうのはなんとなく見えている。それでもあたしはずっと、同じ場所をぐるぐる回る環状線から降りることができないでいる。行き過ぎる景色はいつも同じ。車内にいる顔ぶれは毎日違う顔。自分だけがいつまでも変われないまま、カレンダーの日付だけが進む。
 学校の行き帰りで一人になることが増えた。クラスが同じになってからはよく葵と肩を並べて帰っていたけど、最近はまた一人に戻り、大して食べたくもないマクドナルドに寄ったり、欲しくもない服や本を買ったりしている。ヒトで埋められない隙間をモノで埋めているだけの話だ。
 葵が彼と付き合い始めて一ヶ月以上経った。あたしはもともと、他人の恋愛事情を根掘り葉掘り聞くようなことはしない。自分に得がないから。人間だから。他人の成功している話なんて、妬ましいか面白くないかのどちらかしかないから。それは親友である葵相手でも例外ではない。まあ向こうから話してくることを耳に入れる程度なら構わないと思っていたものの、葵も自分の恋愛話を、あたしを含め他人には話していないようだ。
 それもいい。相手のことを大切にしたい、守りたいと思うのなら、静かにするか堂々とするかのどちらかしかないはずだ。どっちつかずの「あの子には言う、あの子には言わない」なんていうのが一番最悪だ。頭に耳と口がついているのだから、当事者以外に知られた段階で秘密が漏れることを覚悟しなければならない。人の口に戸は立てられない。耳だってそうだし。

 風が渦を巻いているような走行音とともに、電車は学校の最寄り駅に滑り込む。

 新しい一日の始まり。新しくても変わらない景色。意識。

 あたし。