燃えるような夕焼け空が広がる中を歩いていた。経済ドラマとかドキュメントの一ページならよく映えそうな光景だったが、あたしがそれよりも目を奪われたのは、少し前方を歩くふたつの背中だった。
 襟足の長い髪と、学年では他に見たことのないリュック。彼。
 夕陽にあたって栗色に見えるセミロングに、彼と同じキーホルダーのついた鞄。葵。
 並んで歩く二人の肩の間には、拳ふたつ分くらい空けられたスペースがあったが、下の方に目線を向けると、彼の右手と葵の左手はしっかりと握られている。指と指の間を絡めていた。まるで糸が絡み合ってできたダマのように見えてくる。結局いつもそうなるたびに匙を投げて、ばちんとハサミで切り落とす、絡み合って固くなった、糸のかたまり。一本一本はとても細くて頼りないのに、ぐしゃぐしゃになればなるほどに複雑怪奇で、簡単にはほどけなくて、より強固になる。
 (もと)を正せば、最初からあたしがあの二人の仲をほどいてやろうなんて、無理な話だったのかもしれない。最後に二人きりで話をしたとき、葵は言っていたのだ。しっかり彼と話をすればわかりあえると思う、と。きっと生真面目な葵はあの後、その言葉通りに実行したはずだ。
 ポケットからスマートフォンを取り出す。見ないようにしていた彼とのトーク画面を開く。何件も届いていたメッセージを数件だけ読んで、すぐに閉じた。全て読み進めるまでもない。すべてはあたしが思っているよりもはるか前に、終わっていた。
 ふ、と息を吐いてから歩くスピードを上げる。仲睦まじく笑いに震えているふたつの背中を視界にとらえたまま、そちらに近づいてゆく。

 もう、あたしにできることは一つしかない。
 他にもあるのかもしれないけど、これしか思いつかない。
 これでうまくいかないなら、もう後はどうにでもしてくれ。

 駅に滑り込む電車と同じで、一気に近づいた後は少しずつスピードを緩めつつ、そう思っていた。