独りで歩く帰り道、ずっと凪いだように静かだった胸の中で絶え間なく、重く冷たい音が鳴り響いていた。ガチャン、とも、バキャン、ともつかない音が何度も。何度も。

 恋と絆が自動車事故みたいに正面からぶつかり合った結果、どちらが強いか……という衝突試験。何度ぶつかり合っても、恋も絆も粉々に砕け散って、砂のようになった破片はわずかな間だけ空中を漂いながらきらめいたあと、真っ白な地面をただ醜く汚す塵になり果てる。それらはいくらかき集めても、熱や力を込めようとも、二度と元のかたちには戻らない。
 あたしはとんでもないことに手を出しているのかもしれない。百歩譲って、そんな無体なことをする自分に酔う人間がいたって構わない。けれど、自分がそうなる必要が一体どこにあったのだろうか。
 仮に自分がするとしても、どちらがより大切かを熟考してどちらかを選び、選ばなかった方を失う覚悟ならばいい。少なくとも選んだほうは壊れないで済むからだ。あたしがしているのは、ただの衝突試験。どちらも傷つくし、どちらも手元に残らないかもしれない。
 いや、きっと残らない。むしろ、飛んできた破片が自身を傷つけることだってある。そうしてできた傷口から血が流れ出した頬に手をやって、指に残る鉄の味を確かめたとき、はたと気づくのだ。
 二兎を追う者は一兎をも得ず、という諺を習わなかったか……と。
 まずい。

 そう思ったのと、ポケットに入れたスマートフォンが震えたのは同時だった。彼からのメッセージだ。

<ちょっと、相談がある>

 傷口に滲む赤色がぷくりと膨らんで、次の瞬間にはだらだらと勢いよく流れ出す。わかった、とだけフリックしたあたしはスマートフォンをポケットに仕舞う。彼が相談なんかする気などないということは分かっていた。あたしがそう理解しているのを、彼も気づいている。
 迷いこそあれ、今は傷をふさぎ、流れ続ける血を止めることの方が先決のように思ったのだった。