<The local train is arriving shortly on track 1. For your safety, please stand behind the yellow line.>

 駅のホームに流れるアナウンスは、危ないから線より後ろに下がれ、という。ここはこれ以上踏み込んじゃいけない……という瞬間には、この先も生きているうちに何度となく遭遇するだろう。
 今のようにアルミニウムの箱がホームに滑り込んでくる瞬間をそのカウントに入れてあげてもいいけど、あたしがいま本当に言いたいのはそういうことじゃない。どっちかと言うと、もっと精神的な話をしたいのだ。

 誰にだよ、と自分にツッコミを入れていたとき、緑色のカラーリングに塗られた車体のドアが開いた。ひとりひとり「ここに座れ」と区切るように、お尻の形にくぼんだロングシートの一か所に腰を下ろした。間髪入れず向かい側に、他校の制服に身を包んだ男女が、隣同士の間隔を空けずに腰を下ろす。
 膝の上にのせた鞄の陰で手を握り合っているのが見えた。決められた場所に座るのは簡単なのに、自分が本当に望む場所に座る権利を得るために、果たしてあたしはどれほどの血を流せばいいのか見当がつかない。目の前に座るこの二人は、その権利を相手に与え、また相手から与えられたのだろう。

 あたしはどうしたらいい。どうしたら、好きな人の隣に太腿が密着しそうなほど近い場所に座って、何気なく手をとって指をからめ、相手の体温を感じられるのか。高校生という、恋をするにはうってつけ、たとえそれがうまくいかなくても「あんなこともあったね、若かったね」などという玉虫色の言葉で煙に巻ける特権階級。いくら札束を積んでも戻せない時間。それが終わるまでのカウントダウンはなんの慈悲もなく進んで、ついに残りがゼロ年と何百日と何時間何分何秒。地球は何回まわるだろう。その前にあたしは、この拗らせっぷりに自分で目がまわりそうだ。

<For your safety, please stand behind the yellow line.>

 その放送は、遠巻きにあたしを見つめている、その他大勢に向かって流されているように思えた。