「あっ、やっと来た!実優!」


いつもと何も変わらない朝。

開きっぱなしになっていた引き戸から教室の中へ足を踏み入れると、待ち構えていたように名前を呼ばれた。


「もー、遅刻ギリギリじゃん」

「ごめんごめん。昨日借りたマンガ読んでたら、寝るのが遅くなっちゃって……」


言いながら肩に下げたサブバッグから、寝坊の原因となったものを取り出す。


「どうだった?」

「うん、すごく良かった!早く続きが読みたい!」


そう言って私が親友の朱里(あかり)に手渡したのは、ピンク色のショッパーに入った、数冊の少女マンガ。

昨日、朱里が貸してくれたものだ。


「ねぇ、次は」


いつ発売なの?と、目を輝かせて尋ねようとした……ときだった。


「……あんたたち、わたしの存在忘れてんじゃないわよ」


机に突っ伏していた上半身を重たげに上げ、不機嫌そうな顔を私達に向けた女子。

それは、もうひとりの親友である梨花(りか)。