父方のおばあちゃんが生きているころ、よく若い時の苦労話をぼやいていた。
 その中でも、孫の僕からして、一番、衝撃的な話がある。

 多分、戦時中のころの話だと思うけど……。
 よく女学校の話をしてくれた。

「幸太郎ちゃん。あのね、おばあちゃん、保健体育の授業が嫌いやったわぁ」
「え? なんで?」
 時代は違えど、ただの保健の授業だ。
 なにがそんな嫌だったのか、気になった。

 すると、おばあちゃんは顔を歪めて、こう語りだす。

「保健の授業が始まるとね……毎回、先生が美子(仮名)さんていう子を教壇に立たせるのよ」
 女学校なので、生徒は女子しかいないらしい。
「教壇に立たせたら、先生はすぐに『美子、早く脱げ!』って素っ裸にさせるの……」
「え……」
 僕は言葉を失った。

 一応、聞いてみる。
「その先生って男?」
「当たり前じゃない……」
 セクハラってレベルじゃないと、黙って聞いていた。

「脱がせたらね。その子の両手を広げさせて、解説をはじめるのよ」
 
 おばあちゃんが言うには、当時の男女差別は相当酷く、また大人の先生に何も言えなかったらしい。
 美子さんも毎回指名されるので、黙って無表情で言うことを聞いていたらしい。
 素っ裸にされた美子さんを、人形のように扱う教師。
 それを見て、無言で固まる女子生徒たち。
 職権乱用どころか、犯罪だ。

 その変態教師は、伸びる指示棒で美子さんの胸に触れて、こう言いだす。
「見ろ、みんな。美子は14歳だから、乳腺が発達してきたな。女ってのは、こういう風に成長するんだぞ」
「「「……」」」
 直接、手で触れるわけではないが、教師は美子さんの身体を隅から隅まで、なめまわすように、一々指示棒で触れては説明をする。

「ここが股間だな」「ここが脇だな」「ここが尻だな」

 そんなの女子生徒は説明されなくても、わかっているのに、一人延々と喋っているらしい。

 おばあちゃんは、悔しそうに言っていた。
「美子さんがかわいそうだったわぁ。子供のばあちゃんじゃ、なんもできんかったからねぇ」

 僕はこの話を聞いて、思った。
 その変態教師は、保健体育と偽っては、美子さんが好きだから、裸にさせていただけなのだろうと……。

 おばあちゃんは、無事に女学校を卒業したあと、僕のおじいちゃんと結婚した。
 だが、美子さんはきっとトラウマを抱えて生きていたのだろうと思うと、僕は怒りを覚えた。

 その後は知らないが、きっと変態クズ教師は、わいせつな犯罪で捕まったのだろうと思う。

 了