僕には年の離れた兄がいる。
 結婚していて、長年仲の良い夫婦だ。

 今はもう死んじゃったのだけど、結婚して間もないころに、兄の夢だった犬を飼うことになった。
 結婚式にも出すぐらい二人とも、子供のように可愛がっていた。

 二人とも旅行好きで、そのワンちゃんは近所のペットホテルに預けていたらしい。
 また旅行以外の時もよく利用していたらしい。

 だが、長年利用していたのに、いつ頃からか、兄が電話の予約をすると、毎回……。
「すいません。予約がいっぱいです」
 と断られるようになったという。

 その店は小さな個人店で、大人しい女性が一人で経営していたらしい。

 不思議に思った兄が、今度は奥さんに電話してもらうように頼む。
 兄嫁が、さっそく電話すると、キッパリとこう言われたらしい。

「今後、味噌村さんのご利用は断らさせていただきます」
 そう強い口調で、言われたらしい。

 当然、兄嫁は訳がわからず、「どうしてですか?」と訪ねる。

「理由は言えません」
 と断られて、一方的に電話を切られたそうな……。

 その一連の出来事を、兄に伝えると、二人して首を傾げたという。

 事態を重く見た夫婦は、互いに「何か悪いことしたかな?」と情報を整理することにした。

 僕の兄は幼いころから老け顔で、何故か強面で通っている。 (本人は気の小さなおっさん)
 だから、お店の大人しい店長からは怖がられていたらしい。
 これに関しては、兄は慣れっこなので、仕方ないと思っていた。
 そんなことで、出入り禁止を食らうだろうか?

 お店の女性はきっと兄が怖いから「予約でいっぱい」と断っていた……。だが、怖くない兄嫁が電話したことで、出禁を伝えられたのだろうと二人は推測した。
 ならば、原因は兄嫁か? なんて話題にもなる。
 兄嫁はおっとりとした人で、別に悪い人じゃない。

 しばらく、二人で考える……。
 そこで、一つだけ答えが浮かんだそうな。

「「Tバックだっ!」」

 兄嫁がワンちゃんを預けに行ったときのこと。
 大人しめで真面目な店長さんが、腰をかかがめた際に、赤いレースの派手なパンティ、Tバックが見えたらしく。
 ギャップが刺激的だったのか、兄嫁は夕方、仕事から帰宅した兄にその話を笑いながら、報告したらしい。
 
 兄夫婦の住んでいる家は、駅の近くで、夏で暑かったので、窓を全開にしていたらしい。
 そんなに大きな声で話していたわけではないのだが……。
 自宅のすぐ裏は、帰宅ラッシュのサラリーマンやOLでいっぱいだ。

「今日さ、あの店の人が、赤いTバックを履いてたの見ちゃった!」
「ウソだぁ?」
「本当だって! 私、しっかり見たもの、すっごい派手なやつ!」
「えぇ……あの人、そんな下着履くような人に見えなかったよ? 真面目で大人しそうだったし……」
「いやいや、本当だってば! レースで赤くて……」
 と夫婦はキッチンで、料理を作りながら、談笑していたそうだ。


「「……」」

 出禁になるようなことは、これぐらいしかないと、二人は原因を突き止めたらしい。
 最初は不服だったが、風の噂でこれが店長の耳に入ったのなら、「ま、しょうがないね」と納得してしまったらしい。

 ただ、兄夫婦としてはそんなことになるなんて、思っていなかった。
 とりあえず、ワンちゃんは別のペットホテルに預かってもらうことにした。

 余談だが、その後ワンコは去勢手術を受けて、大人しくなった。
 同じオスとして、とても同情した。
 なんにしても、犬に罪はない……。