え?出会って次の日に婚約者?



結璃菜は服を着ると床に下りて土下座をした

「どちら様か存じ上げませんが申し訳ありません」

彼の手が私の顎をつかみ顔はあげられた

「土下座なんてしないでよ……そっか俺の名前も覚えてないのか」
「すみません……」
「ちょっとショック……かな」

彼は部屋の電話の受話器をとった

「朝食をお願いします」

隣の部屋に行くとすぐ戻ってきた
手には名刺を持っていて渡された

「結璃菜の鞄にもこれが入ってるから後で確認しておいて」
「はい……書道家…ゆうきあおぐも?さん?」

「蒼い雲と書いてそううんと読む」
「そううんさん……蒼い雲ってないですよね?」

「ハハッ確かにな……でも書道をする人は雅号っていうのが付くんだよ」
「雅号?」

「ん〜芸名みたいなもんかな」
「なるほどです……結城さんて呼んだのは少し思い出した気がしますね」

結璃菜は昨夜の事の所々記憶が戻ってきた
でも会話はまだ全然思い出せない

「俺との会話を覚えてないのかー」
「申し訳ありません」

「それは秘書課の謝り方?」
「はい……私仕事の事まで話したんですか?」

「結構俺は結璃菜の事を知ったよ(笑)」

彼は立ち上がって手を出してくれた

「隣の部屋にソファーがあるからこれからの事を話そうか」

これからの事?
言われるままにソファーに引っ張られてきて隣同士に座った


すごい……寝室もでっかいベッドだったけどこっちの部屋も広いし庭も見える

「このお部屋ってお高いですよね?」
「普通のスイートルームだよ」
「……私払えないんで帰ります」

立ち上がるとすぐ手を引かれて座らされた

「請求なんかしないから……この部屋は元々俺が泊まる予定だった部屋だからお金の心配は一切しなくていいよ」

足がプルプルしてきた
お酒飲んで知らない人と関係をもつなんて自分がこんなにチョロいとは……

「寒い?」
「いえ……」

「結璃菜はシャワーしておいで…シャキッと目を覚ましてから話そう」
「シャワー?」

「ちょっと俺は部屋から出てくるからさ、ゆっくり湯船に浸かってもいいし…今日は仕事は休みだろ?」
「はい」

仕事が休みの事まで話してたんだ

「朝食も頼んでるから待ってて」

そう言うと結城さんはポーチを抱えて部屋から出ていった

結璃菜は浴槽を覗いた
ホテルのアメニティって凄いな

テレビでしか見たことないけど、バスローブもある

そしてカゴには昨日結城さんが使ったであろうと思われる脱ぎっぱなしのバスローブとバスタオルが置いてあり
朝起きた姿を思い出してしまった

シャワーでいいやと蛇口をひねる

あ〜温かい……

今日は土曜日で会社も休み
スイートルームなんて滅多に、いや一生泊まれないかもしれないから結城さんに甘えちゃお

昨日の事は……忘れたい……

バスローブというものを初めて着て、浴室から出て部屋に行くと庭に結城さんが戻ってきていた
ドアを開けるとタバコを吸っていた

「おかえりなさい」
「フッ…ただいま」

フゥ〜っと煙をはく
「タバコ吸われるんですね」

「普段は吸わないけど、たま〜に吸うかな」

結城さんは携帯用の灰皿にタバコを入れた

「朝食にしよう」
「はい」

部屋に入り電話で運んで下さいとお願いしていた

バスローブの私は寝室で料理が運ばれるのを待つ
すぐに豪華な朝食が運ばれた


「いただきます」

温かいスープから口に運ぶ

「美味しい〜胃も温まります」
「昨日は食べずに呑んだのかい?」

「いえ、1階のレストランで食事もしましたよ」
「初めてのお酒で呑みすぎか……」

「……です…すみません」

スープの後にパンを手に取ると視線を感じた

「えっ、食べちゃダメでしたか?」
「いや……ノーメイクだよな?でも美人だなと思って」

「あ、ありがとうございます」
「若さかな(笑)」

「結城さんはおいくつですか?」
「27歳だよ」

6つも歳上だったのか

「お若く見えますね」
「まあ、よく言われるかな……熱っ」

結城さんは猫舌のようで私が普通に飲んだスープがまだ熱かったようで少し笑ってしまった

「え?」
「いえ、猫舌なんだなって(笑)」

「バレた(笑)結璃菜は化粧してると25歳くらいにも見えるな」
「まあ、よく言われますね」

「ぷっ、同じ事言うなよ(笑)」
「たまたまですよ(笑)」

私……笑えてる……

「俺とした約束を覚えてないんだろ?」
「はい」

「まずは今フリーで間違いないよな?昨日振られたと話していたから」
「……はい」



そう……昨日10月25日の金曜日に私は2年付き合った彼氏に振られた

出会いはカフェのバイト先で付き合いも順調だと思っていた

私が短大を卒業して就職したのが今年の春
昨日は彼氏、いやもう元彼の20歳の誕生日だった

実は元彼とは偶然にも誕生日が同じ日で意気投合
去年の私の20歳の誕生日に

〝 もう1年飲むのを待って来年の俺の20歳の誕生日にお祝いでシャンパンでも開けようよ〟

と言われていた

それを今思えば忠実に守ってきたバカな私

友達にも会社の人との食事でも呑めないからと断っていたのに……

短大卒から就職して私はバイトを辞め休みが土日祝になった
彼は四年制大学に通っていて金土日の週3日入るシフト

短大の頃は私は火曜日以外はバイトに入っていて週に4日は彼と会えていた

就職してからは土日の彼の早上がりの日に店に顔を出して一緒に帰るようにして最低週1回では会っていた

そして入社して半年、有給がもらえたから当然10月25日に即提出

平日だけどびっくりさせようと思い話題にも出さず、ただ彼をびっくりさせたかったはずなのに……

当日彼のバイト終わりの時間にカフェに行った私は元の仲間にびっくりされた

「結璃菜ちゃん、仕事は?」
「今日は休みをとったの」

バイト仲間がスタッフルームに見に行ってくれたが
「もう帰ってた」

「ち、ちょっと来て」
元仲間に店から連れ出される

「気を悪くしないでね」
「うん」

「将真(しょうま)くんとは別れたんじゃないの?この前から別の人と付き合ってるよ」
「え?」

「今日のバイトね30分早く帰ったのよ、裏で多分彼女が待ってるって話してたらしい……」
「最近会ってなかったからかな〜あれ?将真に言われたのを私が覚えてないのかな?」

「ちゃんと確認した方がいいよ」
「うん、ありがとう……バイト中にごめんね」

私は笑顔で去った
だってまだバイトをしている将真が働きにくくなるのは可哀想だし……

カフェから遠ざかりながら将真に電話をした

「もしもし」
「何だよ」

「誕生日おめでとう……今ね店に行ったの」
「お前仕事じゃん?」

「私達っていつ別れたの?」
「えー、この前言ったじゃん、デートも日程合わないし、仕事の話ばっかだからつまんね、もういいやって」

「それは将真が拗ねただけでしょ?別れるなんて言ってないじゃない」
「じゃあ、別れる……もう大学で新しい彼女出来たし、今日の誕生日は彼女と過ごすから……じゃあな」

勝手に電話を切られた……

じゃあ、別れるって……2年付き合ってそんな簡単な言葉?

子供か!確かに年下だったけど……


それから私は1人でこのホテルに食事に来た
予約はしてなかったけど将真と来ようと調べていた店だった

まずはビールを頼み料理を平らげて店を出ると
上の階にBARがあるのを見つける
そして1人でカウンターに座りマスターと話していたんだ

甘いカクテルはどんどん進み途中からきた男性とマスターと話したのを思い出してきた

「カウンターに座ったのが結城さんですか?」
「そうだよ、かなり呑んだとマスターから聞いたよ」

「甘くて美味しかったなぁ」
「それで俺にお持ち帰りされたんだろ?」
「あっ……」

「でも一応言っとくけどちゃんと会話もしてるからな、マスターも聞いてるし俺は住所も聞いてタクシーにのせるつもりだったんだぞ」
「はい」

「そうしたら住所は何て言ってるかわからないし、メモしてもらったのに何て書いてあるのか読めないし」

フルーツに手を伸ばしていたところだった

「……私、字が汚くて会社でもよく注意されるんです」

「いくら汚くても丁寧に書けば大抵は読めるもんだ、まあ、その事も話してた」
「習いに行くか、通信教育しようと思っていて」

「それで俺が無料で教えるから俺の頼みも聞いて欲しくて結璃菜に名刺を渡したんだけどな」
「えっ、無料で?」

「やっぱり覚えてないか」

軽くため息をつかれた

「書道家さんに無料で教えて貰えるなんてめっちゃ素晴らしいことじゃないですかー、何でもしますよ」

結璃菜は嬉しそうに笑った

「初めて会ってHまでして信用していいの?俺の事」

「朝はどうしようと思いましたけど……
結城さん優しいですしちゃんと名刺渡してくれたって事は身分も隠してないし、それも1つの出会いだと思います」

「そうかな?」
「マスターとも仲良さげだったので変な人ならこんなちゃんとしたホテルで仕事出来ないですよね、結城さんも軽い人なら普通はラブホテルでヤり逃げってとこでしょう?」

「まあ……そうだな」
「結城さんの頼みとは?」

「まず、結璃菜を教えるにあたって上達ぶりを動画でSNS発信をしたい」
「全然OKです」

「顔は出さないから……書道教室を広める為のものとしてって事」
「はい」

「もう1つ……」
「……どうぞ?」

「言いにくいんだが俺の婚約者になって欲しい……
フリでいいんだが」
「彼女のフリじゃなくて婚約者?」

「あぁ」
「いつまでですか?」

「実は昨日の結璃菜を見て思いついたからまだ具体的にどうするかは考えてなくて……」
「どういう事ですか?」


結璃菜は首を傾げる

「実は……俺の師匠が高齢で俺が嫁をもらうまでは死ねんとか最近言い始めてさ」
「ご病気ですか?」

「いや、足は少し弱ってるけどまだ指導もしてるし、書くのは書ける
でも結婚を催促される回数も増えてきてさ

実は今日も午後から仕事でこのホテルを使ったんだけどさ、師匠への依頼がだいぶ俺に回ってき始めたんだよね」

結璃菜はストローでジュースを飲みながらじっと話を聞いてくれていた

「だからまずは婚約者として師匠に紹介して、まあ昨日の話から結璃菜はフリーだし美人だし……
何か久しぶりに人を好きになれそうという俺の勘なんだけど」

結城さんはニコッと笑顔になった

笑顔もイケメンだ
じーっと結城さんの顔を見てしまう

「一応フリだけど結城さんは私が気に入ったと?」

「うん、師匠を安心させたくてどうしようと考えてたのは本当にマジだよ
マスターに聞いてもらえば分かる事だし、相談もしてた」

そうなのか……そこに私が酔って現れたのね

「わかりました!
結城さんの事情と付き合う事はもう少しお互いを知ってからということで……
師匠への婚約者のフリはちゃんと努めさせていただきます」

深々と頭を下げる

「昨日ご迷惑をおかけして、朝からこんな豪華な食事もさせてもらいましたしね」

ご馳走様でしたと手を合わす

こういうちゃんとした所とかいいんだよな〜って思う結城がいた

結城さんは電話をして朝食を下げてもらうように言っていた

着替えておいでとバスローブの私に告げて私は寝室へ

食べすぎたーとキングサイズのベッドに少しだけ横になる
こんな贅沢いいのかな……

寝室には結城さんのスーツケースが置いてあった
仕事でスイートルームに泊まるしマスターとも仲がいいのはこのホテルの常連客だよね

書道家ってお金持ってるのかな……
携帯で結城蒼雲と検索してみた

えっ?これは家?純和風の広い外観が出てきた
どうやら書道教室を
開いてる場所みたいで結城さんの数々の賞の経歴などが書かれていた

へぇ、やっぱり凄い人なんだ
今注目の若手書道家かぁ

私の読めない字がマシになるかなぁ

隣からかすかに声がして朝食を下げに来たのかと思いながら着替えと軽く化粧をすます

「結璃菜、着替えた?こっちに来て」
「はい」

さっきまで朝食が乗っていたテーブルにはケーキが置かれていた
「え?」

プレートには‘ ゆりなお誕生日おめでとう’と書かれてあった

「1日遅れになったけど……」

ガサガサと音がして花束が結城さんの後ろから出てきた
「うそ、可愛い」

「ちょっと朝早くてさ、バラに揃えようかと思ったけど急だったから本数なくて色んな花にしてもらったんだ」

あっ、私がシャワーしている間に出て行ったのはこれを手配するため?

「あ、ありがとうございます」
素直に嬉しかった

結城さんから花束を受け取ると昨日の事を思い出して涙が出てきた


「……昨日…彼氏に振られて最悪の誕生日だと思っていたのに…
起きたら今日はこんな素敵な日で感情が追いつきません……ありがとうございます」

結城さんは涙を手で拭ってくれて……私達は自然に長い深いキスをしていた

「ごめんなさい…口紅ついちゃった」
結城さんの唇を今度は私が指でなぞる

「構わない」
ともう一度唇を合わす

大人のキスだ……当然こんなイケメンでモテるだろうし
経験もたくさんしてきてるだろうなと思いながらもキスだけで結城さんに惹かれていきそうな自分がいる


「結璃菜……もう一度抱かせて欲しい」

花束をテーブルに置き結城さんの首に腕を回した
結城さんはお姫様抱っこをしてくれて寝室まで運んでくれてさっき着替えた服をまた脱ぐことになった

自分が今までとは違う声を出していることに初めて気づく

「結璃菜……可愛い」
「っそんなこと言われたことないっ」

「こんなに可愛い結璃菜は俺の前だけでいいよ」

「……わかっ……た……」
はぁはぁ……

こんなに体力使うものだったっけ
結城さんはシャワーを浴びに行った

「結璃菜、大丈夫?」
少しウトウトしていたようだった

「あっ、大丈夫」
「シャワーする?少し寝る?」

「でも結城さん午後から仕事ですよね?」
「うん、結璃菜とゆっくり話したかったけど2時から講演がある」

「そんなのもあるの?」
「うん」

「結城さんの世界の事はまだ全くわからないのに婚約者でいいのかな?」
「大丈夫だよ……来週空いてるかな?」

「はい」
携帯を出した時にLINEの交換をした

結城さんは携帯を2台持っていて書道用と個人用で使い分けていた

今はLINEやネットワークでの教室もしているからプライベートの連絡先はきっちりわけていると言っていた

結璃菜のアカウントは個人用に追加された
仕事用のLINEも少し見せてもらったが数が凄かった

ちゃんとどういう人かわかるように自分でフルネームと練習曜日などを編集していた

「私は本名で呼べばいい?それとも雅号?」
「基本名前だけど書道関係で話す時はうまく使い分けてもらうと有難いかな」

「わかった……かえでまるって本名?」
LINEに追加された名前は楓丸と書いてあった

普通でも自分のあだ名とかでアカウント作る人もいるんだからおかしくはない

「よく言われるんだよね(笑)これで楓丸(ふうま)って呼ぶんだ」

「じゃあ、楓丸さんて呼べばいい?」
「呼び捨てがいいけど(笑)」

6つも上なのに呼び捨てはさすがにできないかも

「楓(ふう)くん?」
「楓くんて呼ばれたことないかも……」

「じゃあ、私だけの特別な呼び方で楓くんにする」
「わかった……特別嬉しいな」

ケーキは箱に入れてもらい花束を持って部屋を出る時間になった

「土曜日の1時に結璃菜の家に行くから」
「はい、お願いします」

部屋を出る時に軽くキスを交わして結璃菜はホテルを出て家に戻った

駅近だけどボロくてせまいアパートの1階
就職を機に念願の一人暮らし

会社まで電車で30分、だから駅近じゃないと不便なのだ
帰りに花瓶を買って帰り部屋に入るとすぐに飾った

花束なんてプレゼントしてもらったの初めてだ
部屋着に着替えて敷きっぱなしの布団に横になる

そして将真の連絡先を消した

結璃菜は小さい時に母親を亡くしており父子家庭だった
けど父親は夜の仕事だった為ほとんど会わない

小さい頃は祖父母の家で夜は預かってもらっていた記憶はあるがいつからか自分の事は自分でするようになっていたし、たまに会う父親にも大丈夫よなんて強がりを言って甘えることはしなかった

初めての彼氏は高校の時、あの頃は何をするにも楽しかったけど何故か振られた

そして将真と付き合いだしても結局振られた
別にケンカをしたわけでもないのに……

何がいけないんだろ
字が汚くてギャップがあると高校の友達に言われた事もある

私はよくクール美人と言われるが自分ではそう思わないし目つきは鋭いから好きではない
男の人って可愛いのが好きだよね……

それに小鳥遊結璃菜なんてめちゃくちゃ多い画数の名前を書くのが昔から嫌だった

パソコンではすぐ出るしそこまで仕事に影響はないだろうと思ったが就活の履歴書ではやっぱり言われる会社もあった

秘書検定を持っていたから今の会社には有利だったが上司からは注意はされる

結璃菜は名刺を鞄から出した
まさかねこんな人に教えてもらえるなんてね

お金も貯めたかったし習いにいくのも受講料高いしなと思っていたからほんとに結城さんには感謝しかない

昔から家にはお金がないと幼心に気づいていたから節約料理もしてきたし、いつかベッドで寝れる部屋に引っ越すぞと最初のボーナスも使わずに貯金した

結城さんはいつもあんな暮らしをしてるのかな
「いいな……」と本音が漏れてしまった

横になっていると寝てしまっていた
電話の音で目が覚める
結城さんだ

「もしもし」
「結璃菜?」
「あっ、お疲れ様です」
「今やっと家に帰ってきたよ」
「うん」

「師匠に来週つれてくるからって言っといた」
「はい……どんな服装がいい?といってもブランド品なんかは持ってないけど」

「そうだなワンピースとかでいいと思う」
「わかった」

「住所教えてくれないと土曜日行けないけど?」
「ごめんなさい……寝てました」

「だろうなと思ってた(笑)」
「あの、私の家は凄い狭くてボロいアパートだからどこかの方がいいと思うんだけど……」

「小さいテーブルがあれば十分だよ、それに場所借りたら無料の意味が無い」

あっ、そうか……お金かからないようにしてくれたから
「ホントに汚いし狭いよ?」

「うん全然大丈夫」
「じゃあ……住所を送るね」

「うん、よろしく」
電話を切ると急いで住所を送信して部屋を見渡した

そういえば将真にも古いなと言われ一度しか来なかったな

明日は大掃除だ!

週が明けて月曜日の昼休み
同期のひまりと社食でお昼を一緒にしていた

「え?別れた?有給取って一緒にお祝いじゃなかったの?」
「その予定だったよ〜」

ひまりに金曜日の出来事を話した
楓くんの事はまだふせておいて……

「でもさ〜結璃菜は少し前から二股かけられていたかもだね」
「私もそうだと思った、1週間ほどでもう彼女と誕生日過ごすなんてね」

元彼の将真もまあまあモテていた
美男美女カップルとかバイト仲間に言われていたし、大学の彼の行動はわからなかったからな〜

私が店の定休日以外バイトに入っていたから遊んでたかもって軽くあんな別れ方をしてから気づいた

「それとね、私習字を習うの」
「上司に言われたってやつ?」

「うん、いい人が見つかってね」
「人?教室じゃなくて?」
「あー、教室」

まだ付き合う事は言えないけど字を習うことは言いたかった

「上司を見返してやるの!」
「うん、頑張れ〜」

私は内勤だからきっちり12時から1時間昼食の時間が取れるから安くて美味しい社食がありがたい

ひまりは会議とかで昼を過ぎる時もあるから時間が合えば一緒に食べる仲だ

同期では1番気があっていたから彼氏話もしていた
一通りの報告を終えると本当にスッキリした

午後の仕事も頑張るぞと張り切るものの、電話の伝言を渡すと
「4時?6時?」
と先輩に聞かれる始末

「すみません4時です」
4を殴り書きすると6に見えるみたいで……

もう一度自分で読み直してから渡すといいよと優しい先輩がフォローしてくれる

楓くんに数字も教えてもらおうと思った

1週間はとても早い