静かになったと思ったら、スコールが止んでいた。同時に、中高年のメンバーが帰り支度を始めた。いつもと違って、机の上の文房具も整理している。土岐は、なんとなく不安に駆られた。誰に言うともなく、
「みなさんは金曜日のプレゼンテーションの資料はもう作られたんですか?」
と訊ねていた。答えてくれたのは、一番近くにいた中年組の最年少の畠山だった。
「いや、プレゼンは財務分析だけだと聞いてますけど・・・」
と言うその語尾を川野が自分の前の机の上を几帳面に整理しながら継いだ。
「だから、われわれは明日、観光ツアーに出かけます。土岐さんには悪いですけど・・・」
と言うその語尾をさらに、頭髪にも服装にもまったく乱れのない銀行マンのような浜田が受け継いだ。
「あすは大変ですね。だけど、われわれはあなたよりも一週間も前から作業をしているんで、その辺を斟酌してください」
最後に中年グループのなかで一番小柄で童顔の松山がまとめた。
「いやあ、土岐さんには本当に申し訳ないと思っているんですよ。あんただけに仕事をさせて、われわれだけが物見遊山に出かけるなんて・・・」
それを隣のテーブルで帰り支度を終えた吉川が訂正した。
「物見遊山じゃないんですよ。実はまだわたしらは、プロジェクト対象の路線のすべてを踏破していないんですよ。南路線は松山さんたちが、北路線はわれわれのチームが一応、電化区間の始発から終点まで乗車したんですけど、東路線は丸山君が乗車しただけで、わたしらはまだなんです。そういうわけで、明日は東路線に乗車して、ついでに終点の世界遺産に指定された寺院を見学かたがたお参りしようというわけです」
と入れ歯の夾雑音が時々混じる吉川が言い終えたのを契機に、全員が五時前に作業所をあとにした。
土岐は作業所からの帰りのタクシーの中で急に腹痛におそわれた。下腹部に鈍痛がトグロを巻いていた。時間的に昼食の何かが良くなかったのだろうが、見当がつかない。激しい便意が下腹部に耐え難い疼痛をもたらした。次第に脂汗が額に流れ、隣に座っていた丸山との会話も上の空だった。話し方の調子で相手の体調の変化に気がつくところが丸山のすぐれたところだった。
「土岐さん、どうかしましたか?」
と土岐の顔をのぞきこんでくる。
「ちょっと、おなかの調子が・・・」
と言うと、丸山はそれ以上、話しかけてこなかった。
「みなさんは金曜日のプレゼンテーションの資料はもう作られたんですか?」
と訊ねていた。答えてくれたのは、一番近くにいた中年組の最年少の畠山だった。
「いや、プレゼンは財務分析だけだと聞いてますけど・・・」
と言うその語尾を川野が自分の前の机の上を几帳面に整理しながら継いだ。
「だから、われわれは明日、観光ツアーに出かけます。土岐さんには悪いですけど・・・」
と言うその語尾をさらに、頭髪にも服装にもまったく乱れのない銀行マンのような浜田が受け継いだ。
「あすは大変ですね。だけど、われわれはあなたよりも一週間も前から作業をしているんで、その辺を斟酌してください」
最後に中年グループのなかで一番小柄で童顔の松山がまとめた。
「いやあ、土岐さんには本当に申し訳ないと思っているんですよ。あんただけに仕事をさせて、われわれだけが物見遊山に出かけるなんて・・・」
それを隣のテーブルで帰り支度を終えた吉川が訂正した。
「物見遊山じゃないんですよ。実はまだわたしらは、プロジェクト対象の路線のすべてを踏破していないんですよ。南路線は松山さんたちが、北路線はわれわれのチームが一応、電化区間の始発から終点まで乗車したんですけど、東路線は丸山君が乗車しただけで、わたしらはまだなんです。そういうわけで、明日は東路線に乗車して、ついでに終点の世界遺産に指定された寺院を見学かたがたお参りしようというわけです」
と入れ歯の夾雑音が時々混じる吉川が言い終えたのを契機に、全員が五時前に作業所をあとにした。
土岐は作業所からの帰りのタクシーの中で急に腹痛におそわれた。下腹部に鈍痛がトグロを巻いていた。時間的に昼食の何かが良くなかったのだろうが、見当がつかない。激しい便意が下腹部に耐え難い疼痛をもたらした。次第に脂汗が額に流れ、隣に座っていた丸山との会話も上の空だった。話し方の調子で相手の体調の変化に気がつくところが丸山のすぐれたところだった。
「土岐さん、どうかしましたか?」
と土岐の顔をのぞきこんでくる。
「ちょっと、おなかの調子が・・・」
と言うと、丸山はそれ以上、話しかけてこなかった。


