作業所の窓外に白濁した細い飴のようなスコールが鳴り物入りで乱舞し始めた。すぐに止みそうだということは、太陽が透けて見えそうな雨空の明るさで予想できた。土岐以外のメンバーは報告書がほぼ完成したようで、よもやまの雑談をし出した。副プロジェクト・マネージャーの吉川の話は東海道新幹線についての昔話が多い。眼を青年のように輝かせ、手振り身振りを交えて得意げに話す。初老グループの山田と高橋は吉川に話を合わせるように、ときどき吉川にとってつけたようなお追従の質問をする。中年グループは松山と川野が電化について、浜田が電信について、畠山が信号について、それぞれ技術的なことをさみだれのように話題にしている。かれらはいずれも南田が持参した扶桑物産の見積もりの金額を報告書の空欄にしてあった箇所にそのまま埋め込んだだけのようだった。作業から解き放たれた明るい気分に声音のキーがすこし高くなっているように聞こえた。そうした中高年の技術者の高揚したざわめきの中で、土岐ひとりが重苦しい気分で、巨額赤字を打ち出したワークシートの金額を茫然と眺めていた。
丸山が土岐の肩にしっとりと熱い肉厚の手を置いて聞いてきた。手のひらの湿り気が暑く土岐の肩にしみこんでくる。
「どうですか?財務分析の方は・・・」
とまるで旧知の友のようになれなれしい。
「プロジェクト・コストが約一千億円、それに対して運賃収入が約四百億円で、いまのところ約六百億円の赤字です」
と土岐は金額をすこしまるめて極力客観的に言うように努めた。
「その六百億円は財政負担になるということですか?」
と丸山は軽く腕を組み、考え込むように作業所の天井の隅に目線を向けている。
「そうです。・・・たぶん、この国の政府には負担しきれない金額でしょう」
と土岐は憐憫の思いをすこし込めて言った。
「そうですか・・・今夜のパーティーで西原さんに相談してみましょうか。あの人、ものすごく頭の切れる人ですから・・・わたしみたいな頭の悪い人間にはあの人がどのくらい頭がいいのか、はかりしれません。頭のいい人間と頭の悪い人間はお互いにお互いを分かり合えないんですよね。間に乗り越えられない、見えない壁があるんですよね」
と丸山はため息混じりに、悟りきったようなことを言う。
丸山が土岐の肩にしっとりと熱い肉厚の手を置いて聞いてきた。手のひらの湿り気が暑く土岐の肩にしみこんでくる。
「どうですか?財務分析の方は・・・」
とまるで旧知の友のようになれなれしい。
「プロジェクト・コストが約一千億円、それに対して運賃収入が約四百億円で、いまのところ約六百億円の赤字です」
と土岐は金額をすこしまるめて極力客観的に言うように努めた。
「その六百億円は財政負担になるということですか?」
と丸山は軽く腕を組み、考え込むように作業所の天井の隅に目線を向けている。
「そうです。・・・たぶん、この国の政府には負担しきれない金額でしょう」
と土岐は憐憫の思いをすこし込めて言った。
「そうですか・・・今夜のパーティーで西原さんに相談してみましょうか。あの人、ものすごく頭の切れる人ですから・・・わたしみたいな頭の悪い人間にはあの人がどのくらい頭がいいのか、はかりしれません。頭のいい人間と頭の悪い人間はお互いにお互いを分かり合えないんですよね。間に乗り越えられない、見えない壁があるんですよね」
と丸山はため息混じりに、悟りきったようなことを言う。


