フィジビリティスタディ

「南田さんと白石さんと西原さんは同窓なんですよ。三人とも同じ国立大で、南田さんとコマーシャルアタッシェの西原さんは同じ経済学部の先輩と後輩、一等書記官の白石さんと西原さんは学部は違うが、同期で、白石さんは法学部出身です。その白石さんと、うちのプロジェクト・マネージャーの王谷さんは同じ外務省で、・・・王谷さんは大学が違うのでそうじゃないけれど、わたしみたいな二流私立大学出身の者には想像のつかないほど彼らの結束には堅いものがあります。彼らはそういうネットワークを張り巡らしていて、同省なら当然ですが、省が違っても、同窓ならすぐお互いに共通の利害を探るんですね。日本国内じゃ、西原さんの経産省と白石さんの外務省は省益をめぐって、財務省の頭越しに、丁々発止と渡り合っているようですが、ここでは、二人とも随分と仲がいいですよ。民間の南田さんは官僚の白石さんと西原さんにあからさまに媚びへつらっています。年が三人の中では一番若いということもあるんでしょうけど、彼は自分のポジションをわきまえているようです。実際、民と官の交流で、民の側が立ち位置を間違えると、ぼくたちや南田さんのような本国の税金を掠め取るような商売は成り立たないんですよ。いずれにしても、今回のプロジェクトはこの三人が仕掛けたもので、援助は現地の要請に基づくディマンド・ベースだとは言いながら、この国の政府が提出した必要書類はこの三人が全部代筆したものです」
 土岐は、白石と西原の名前を頭に刻んだ。忘れないうちにメモしたかったが、丸山の見ている前ではそうするのが憚られた。
 土岐には、一流国立大学出身の南田や白石や西原が二流私立大学出身で民間に身を置く自分たちに対してどういう意識を持っているのか知る由もない。今夜のパーティーで呑んだくれている寸暇は恐らくないとは思うが、顔だけでも出した方がいいだろうと判断した。
 昼食後、作業所に戻ってから、土岐は副プロジェクト・マネージャーの吉川と電信チーム主任の松山にそれぞれのチームに関する総額の提示を願い出た。理由は分からないが、二人とも金額データを出し渋っているので、
「おおまかで、構いませんので・・・明細もいりませんので・・・」
と言い添えて、出してもらうことにした。金額を出してもらわないと土岐の作業は始められない。
(言わなくったって、そんなことは、分かっている筈だ)