フィジビリティスタディ

 同じようなことを、土岐は数年前に文系の大学に通う甥に説明したことがあったが、彼は最後まで理解しなかった。どうもこの種の話は、理解できる人とそうでない人がいるようで、しかもその能力は先天的なもののような気がしてならない。丸山は理系だから、数字に関しては先天的に理解が容易なのかもしれない。
 丸山は、ワークシートの数字を見ながらさらに質問してきた。
「なんで、割引率は三十年間もずっと3%なんですか?」
「本当は、各年の市場金利で割引かないといけないんですが、まあ、これはベンチマークなんで・・・たとえば、5年後の金額を割引くときは、5年ものの債券の支配的な金利で割引くのが一般的で、・・・」
「支配的な金利?」
「まあ、中心的な金利と言うか、もっとも市場に大量に出回っている債券の金利で、いまのところ、アメリカの財務省証券が、長期資本市場を支配しているようです。この金利は、満期が何年かによって、若干違います。インターネットで、その金利を知ることは簡単なんですが、今日のところは大体の目安の金額を求めるのが目的なんで・・・それに、長期金利でも毎日多少変化するし・・・」
 このへんの説明から、丸山の目線が泳ぎ始めた。土岐もそれ以上詳述するのをやめた。電化プロジェクトの財務分析の特徴は、多額の初期投資とその後の長期にわたる運賃収入の比較なので、いま求めた将来収入の現在価値の合計金額は明日からの作業として計画している財務分析でひとつの目安となる。
 終業時刻の五時近くになった頃、電気関係の中年組が土岐の傍らにやってきて、代表の松山がぽっこりとした小腹をせり出すようにして口を開いた。
「明日の午前中に、扶桑物産の南田さんが部品の見積もりを持ってくると思うんで、昼までには電気関係の見積もりが出ます」
 それを補足するように、細面でうらなりのような浜田が言った。
「われわれのほうは、英文報告書は大体書き終えて、金額だけがいま空欄になっているんです」
 柔術家のようないかつい相貌の畠山が土岐のワークシートをのぞき込みながら、
「そういうわけで、ぼくらは明日の夕方は打ち上げで、プレゼン資料が完成次第、他に何もなければ、木曜日は観光ツアーに出かけてきます」
と嬉しそうに、しかも哀れみのまなざしで、なんとなく嫌味のある口調で言う。
「それでは、お先に・・・」