「いえ、大丈夫です。一等書記官の白石さんの話では、外務大臣の訪問スケジュールがもう決まっていて、大臣の手土産で、このプロジェクトがODAの対象となることが、交換公文で謳われるそうですよ」
「いつものばらまき外交ですね」
と川野が表情を変えず寸鉄で人を刺すようにして言うと、
「ばらまき外交さまさまです」
と松山がおどけたように川野のその言葉を受けて揶揄すると、そのテーブルのメンバー全員が押し殺すように静かに笑った。そうやってメンバー各々が報告書を英文で作成するストレスをささやかに解消しているようにも見えた。
「それじゃ、またあした」
と南田は王谷の方に目礼して、サンダルをペタつかせて、作業所をあわただしく出て行った。胡散臭い奴というのが南田についての土岐の印象だった。
昼食はチャイニーズとフレンチの二手に分かれた。初老組はフレンチ・レストランへ、残りのメンバーはきのうと同じチャイニーズ・レストランに向かった。初老組は王谷がタクシーの助手席に座り、あとの吉川、山田、高橋の三人が後部座席に納まった。後部座席は窮屈そうだったが、三人とも小柄なので、すんなり一台のタクシーに乗り込めた。中華レストラン組は一台に中年組の浜田、畠山、川野が乗り、もう一台に土岐と丸山と松山が乗り込んだ。丸山が助手席を取ったので、土岐と松山が後部座席になった。至近距離で松山と接するのは初めてだった。頭髪には白髪は見られなかったが、鬢は別物のように真っ白だった。
「みなさん、ACIの関係者なんですか?」
と土岐は、話しかけてくるようすがなかったので、とりあえず、そんな質問をしてみた。
「皆さん出向ですよ。わたしの本籍は民間の電線会社で、現在は一時的に外務省の外郭団体に籍を置いています。そこのお偉いさんたちは、みんな外務官僚の天下りだから、生え抜きの皆さんの士気は低いですね。にもかかわらず、ODAの一人当たりの取り扱い金額は世界一らしいですよ」
と松山の話し方はどことなくそっけない。抑揚も愛想もないようなしゃべり方だった。営業では務まらないが、技術者ならこれでいいのかもしれない。如才ない丸山の話し方とは対蹠的だった。すこし間があって、丸山が前を向いたまま言った。
「いつものばらまき外交ですね」
と川野が表情を変えず寸鉄で人を刺すようにして言うと、
「ばらまき外交さまさまです」
と松山がおどけたように川野のその言葉を受けて揶揄すると、そのテーブルのメンバー全員が押し殺すように静かに笑った。そうやってメンバー各々が報告書を英文で作成するストレスをささやかに解消しているようにも見えた。
「それじゃ、またあした」
と南田は王谷の方に目礼して、サンダルをペタつかせて、作業所をあわただしく出て行った。胡散臭い奴というのが南田についての土岐の印象だった。
昼食はチャイニーズとフレンチの二手に分かれた。初老組はフレンチ・レストランへ、残りのメンバーはきのうと同じチャイニーズ・レストランに向かった。初老組は王谷がタクシーの助手席に座り、あとの吉川、山田、高橋の三人が後部座席に納まった。後部座席は窮屈そうだったが、三人とも小柄なので、すんなり一台のタクシーに乗り込めた。中華レストラン組は一台に中年組の浜田、畠山、川野が乗り、もう一台に土岐と丸山と松山が乗り込んだ。丸山が助手席を取ったので、土岐と松山が後部座席になった。至近距離で松山と接するのは初めてだった。頭髪には白髪は見られなかったが、鬢は別物のように真っ白だった。
「みなさん、ACIの関係者なんですか?」
と土岐は、話しかけてくるようすがなかったので、とりあえず、そんな質問をしてみた。
「皆さん出向ですよ。わたしの本籍は民間の電線会社で、現在は一時的に外務省の外郭団体に籍を置いています。そこのお偉いさんたちは、みんな外務官僚の天下りだから、生え抜きの皆さんの士気は低いですね。にもかかわらず、ODAの一人当たりの取り扱い金額は世界一らしいですよ」
と松山の話し方はどことなくそっけない。抑揚も愛想もないようなしゃべり方だった。営業では務まらないが、技術者ならこれでいいのかもしれない。如才ない丸山の話し方とは対蹠的だった。すこし間があって、丸山が前を向いたまま言った。


