フィジビリティスタディ

と明るい声で言いながら、南田は初老グループのテーブルに向かった。滑らかなコンクリート床を歩きながらサンダルの底が足の裏を叩く音がペタペタとする。そのとき、丸山が土岐に囁いた。
「たぶん、軌道の価格のデータだから、一緒に聴いといたほうがいいですよ」
 そう言われて、土岐は南田のあとに続いた。南田は高橋の隣に籐椅子を持っていって腰掛けた。土岐はその二人の後ろから立ったままやり取りをうかがった。
「高橋さん、いまさっき、本社から軌道の見積りが届きましたんで・・・」
「あっそう」
と高橋は抑揚のない返事をした。頭が逆三角形に近く、顎が尖っている。肩幅と比べて頭が大きい。両耳の上に大きな目でもあればカマキリそっくりな顔をしている。
「バラスト軌道で見積もりを、という要望でしたが、本社の方ではスラブの方がいいんじゃないかということで、・・・これがその見積もりです。ちなみに、これは製品見積もりだけで、敷設作業費用は含まれていませんので・・・」
と南田が差し出した見積書を高橋は頭に右手の五本の指を立てて掻きながら見入っている。微細なキラのようなフケが窓から零れ入る一条の日差しを横切って、ラメのように輝いている。
 不意に土岐の耳元で丸山が囁く。
「スラブとバラストの違いは、バラストというのは現在のディーゼル用の軌道で、道床が枕木と砂利で出来ていて、その上にレールを敷く。スラブというのは新幹線で採用されている軌道で、道床がスラブと呼ばれるコンクリートで出来ていて、その上に線路を敷く。この国にスラブ軌道はないから、新工法ということになるでしょうね。メンテナンスはスラブ軌道の方が楽ですが、現在のバラスト軌道をスラブ軌道に変えるとなると、初期費用はけっこう嵩むでしょうね」
 土岐は高橋と南田のやり取りを見ながら、丸山の情報にうなずいた。
「うーん」
と唸ったまま、高橋は長い鼻の下にボールペンを挟んで、腕組みをしている。
「いかがです?」
と南田が高橋の尖った顎をななめ下からなめるようにして見上げる。
「たしかに、スラブ軌道であれば、軌道の狂いも少ないし、点検作業の手間が大幅に省力化できるけど・・・」
「そうでしょ」
と南田が同意を強要するような口調で言う。高橋の声はか細いので、押し切られそうな雰囲気が漂っている。