フィジビリティスタディ

「大丈夫です。こんどは東欧なので、インターネットの使用には問題ないでしょう。この国ではディジタル・ディバイドを体感しました。まあ、日本でも依然としてディジタル・ディバイドは解消されていないですけどね」
と中井は端正な顔と同じような滑舌のいい話し方をする。
「お疲れ様でした。今度は本調査でお会いしましょう」
と丸山が握手の手を差し伸べた。
「交通予測は本調査では用なしだと思いますよ。円借款がついてプロジェクトが動き始めれば、乗客予想なんか必要ないでしょう」
と中井はそっけなく言った。
「それもそうですね」
と言いながら丸山は歯をむき出しにして笑い転げた。土岐には笑っている意味が良く理解できなかった。
 中井が他のメンバーに一通り挨拶を終えて、作業所を出ようとしたとき、新顔が現れた。
「南田さんだ」
と丸山が小さく叫んだ。ブルーの波打ち際に緑の椰子がお辞儀をしているアロハ・シャツにバミューダ・パンツをはいている。裸足に革のサンダルを引っ掛けて、レーザー・プリンターでプリント・アウトしたA4用紙を小脇に束にして持っていた。
「南田さん、こちら土岐さん。財務分析担当です」
と丸山が紹介してくれた。その脇を中井が別れの挨拶をしながらうれしそうに出て行った。
「扶桑物産の南田です」
と落花生のような頭をした馬面の男が自己紹介した。薄いパープルのファッション・グラスの奥で小ずるそうな目が目元に皺をつくって笑っている。
「扶桑総研からきた土岐です」
と土岐も砂田に言われたとおりに自己紹介し、名刺を差し出した。
「同じ企業グループのシンクタンクですね。昔、なにかの調べ物で行ったことがありますよ。ただ、有楽町の本社の方じゃなくて、世田谷かどこかの資料室でしたが・・・」
「ああ、砧ですね」
「そうそう、砧・・・むかし、狸と間違えちゃって、えらい恥を掻きました」
 傍らで丸山が大声を出して笑っている。どちらがつられたのか、南田も息を吸い込みながら笑っている。笑い方もそうだが、脱色したような南国の貧しい彩りの風景になじんだ土岐の目には、南田のカラフルないでたちは際立っていた。
「けさは高橋さんにデータを持ってきたんです」