フィジビリティスタディ

と土岐は確認するように聞いた。シュトゥーバは丸山に向けていた目線を土岐に振ってきた。
「それは極端な意見で、国際情報はどんどん入ってくるので、多少いい生活をしたいというバブルを完全に否定するのは困難です。欲望は無限大です。考えるだけなら誰だって世界中の富を自分だけのものにしたいとバブルを膨らませるだけ膨らませることは可能です。問題は、そのバブルを実現するための努力をする覚悟があるか、どうかということです。身の丈に合わないバブルを抱けば、いずれ崩壊するだろうし、一人当たり所得が千ドルにも満たないようなこの国の国民に子どもに巨額の教育投資をほどこすことは親にとって困難です。もし先進国が好意で援助をしてくれると言うのなら、教育だけで十分です。でも、日本のODAの40%以上が道路やダムや電話関連の経済インフラで、農業や鉱工業や建設業の生産セクターが20%以上・・・教育や保健衛生などの社会インフラは20%以下です。日本のODAの特徴はほかの先進国と違って、日本にとって目先の利益に繋がりそうなものばかりです」
 土岐も丸山もすでに食事を終えていた。おかわりが欲しくなるほど美味というわけではなかったので、いく切れかの鶏肉とサラダと2枚の平焼きパンで十分だった。シュトゥーバは話すことに夢中で、ちぎった平焼きパンを指に挟んだままで、自分で取り分けた鶏肉すらも食べきっていなかった。シュトゥーバの話は止まなかった。
「この国のデット・サービス・レシオは50%近い水準です。こんな国に直接投資をしようという国はないでしょう。だから外資による経済成長はとても望めない」
 そこで丸山のこめかみがピクリと動き、土岐の方を振り向いた。なにかを聞きたいのだと分かったが、彼の質問を待った。
「デット・サービス・レシオってなんですか?」
 土岐の推測は当たった。即座に解説した。
「債務返済比率のことです。輸出額に占める返済すべき元利合計の割合です。これが大きいと、通貨安の要因になるんで、直接投資をしてもその収益が目減りしてしまうんで、人件費が安いといっても投資国は躊躇するでしょう。二十世紀末以降、中国が巨額の外資を呼び込んだのは、人件費の安さだけではなく人民元がドルにリンクされていたことも大きな要因です」
 土岐は丸山に目配せして、そろそろ帰ることを提案した。丸山は土岐が視線に込めた合図に合意した。