フィジビリティスタディ

「日本人はひとりひとりは高いモラルを持っていて素晴らしい国民だと思う。問題は、組織の一員として行動するときだ。個人のモラルが、組織の論理に押しつぶされるのを幾度か見たことがある。とくに、わが国の官庁に跳梁跋扈し、接待で歓楽街に百鬼夜行している商社マンがそうだ。何度か一緒に食事をしたことがあるが、個人的にはいい男だが、組織の代理人としてやっていることは、決してこの国の利益にはならない。つまり、ウイン・ウインの関係にならないのだ」
 丸山は思い当たる節があるような目つきで、
「南田さんのことですか・・・商社マンなんて、あんなもんなんですけどね。・・・と言うぼくの感覚が世界標準ではないのかな」
と中腰になって自嘲気味に言う。土岐は、南田という名前を記憶に留めた。
 シュトゥーバは土岐の目をのぞき込むようにして話し出した。
「無償援助はあなたの国が一番多い。無償だから、文句はつけたくないが、物品はいつもあなたの国では廃棄寸前の在庫品ばかりだ。だから、故障しても部品もないし、代替品もない。たまに、新製品を援助してくれると思えば、援助の対象でない消耗品や交換部品がばか高い。ODAもディマンド・ベースとはいうが、そのディマンドは商社マンと大使館のコマーシャルアタッシェの合作で、それにわが国の官僚や大臣が賄賂で乗っかるという構図になっている。プロジェクトの発注は入札にはなっているが、仕様が日本仕様だから、当然のように日本の業者が落札する。
『日本の納税者のお金が援助になっているから、日本の業者が受注しても問題はない』
というのが日本大使館の見解だが、償還の負担はかさむことになる。日本の業者が世界中で一番安いと言うのなら、文句のつけようがないが、必ずしもそうでないから、援助されながらも割り切れなさが残る」
「いわゆる、ひもつき、というやつですね」
と土岐は同情気味に合いの手を入れた。
「でもそれは、瑣末なことに過ぎない。わたくしが重要だと考えるのは、この国の人々にとっての経済成長とはどういうものかということだ」
 次第にシュトゥーバの口角に微細な唾液の白濁が溜まり始めた。丸山は頷きながら話に加わろうとしているが、自分の専門外なのか、幾度も話し出そうとしては、言葉を呑み込んでいる。話が終わりそうにないのを確認するように丸山は座りなおした。