フィジビリティスタディ

「発展途上国の経済発展については多くの学者がいろいろな説を展開したんですが、アジア諸国の経済成長はつまるところ外資の導入とそれに伴う技術導入に依存しています。資本と技術と初等教育を受けた労働があれば、あと必要なのはマーケットだけで、マーケットを欧米諸国と内需が引き受ければ、投資が投資を呼んで、かつての日本の高度経済成長のように、経済は自動的に成長してゆきます。結局、学者の処方箋はまったく役に立たなかったと言えます。・・・でも、この国がBRICsのような新興国の仲間入りをするのは困難なことだと思います」
と日頃考えていることを言ってしまったが、隣の丸山は、何を言い出すかと、はらはらしているようだった。土岐の顔とシュトゥーバの顔色を交互にうかがいながら、心配そうに眉根に皺を寄せていた。
「だからといって、何もしないでいるということは、わたくしにはできない。わたくしはこの国の自然と人々を愛している。BRICsのような経済成長は望んでいない。ただ、乏しい資源を乏しいなりに有効に使う算段をしたいだけだ」
とシュトゥーバは細い肩をすぼめた。そこで丸山が待っていたかのように口を挟んだ。
「今回の国鉄の首都近郊の電化計画は、うまく行けばこの国の省エネルギーに貢献します。それに、人と物の輸送システムの効率化に役立つと思います」
「ミスター・マルヤマの言うことは正しい。わたくしが心配しているのは、このプロジェクトに便乗して、多くの不効率が生まれることだ。その不効率はこの国にとって将来の負担になる。将来の資本蓄積を食いつぶし、この国を低開発の泥沼におとしめることになる」
「そうならないように、ぼくたちは頑張ります。それに鉄道インフラがある程度整えば、物流と人的移動のボトルネックが多少解消されるので、外資導入も楽になるんじゃないでしょうか」
と丸山が急に立ち上がって、テーブル越しに右手を出して、シュトゥーバに握手を求めた。空いた左手を土岐の顔の前に差し出して、
「土岐さん、がんばりましょう」
と土岐の左手を握った。シュトゥーバは白い歯を剥き出しにして苦笑している。