フィジビリティスタディ

 鶏の丸焼きは香辛料がきつく、土岐の口にはあまり合わなかった。時差の関係もあり睡眠不足から、疲労が多少蓄積されていることもあって、食欲があまりなかった。シュトゥーバはしきりにちぎったサラダと黒焦げの平焼きパンを勧めてくれるのだが、丸山のように片っ端から平らげることは土岐にはできなかった。テーブルの上の料理が遠来の客をもてなす晩餐であるとするならば、日常の粗餐が想像された。こういう食餌なら、メタボリック・シンドロームに脅かされる心配もないだろうとも土岐は思った。
「ミスター・トキ、必要な資料があれば、いつでも言ってもらいたい」
とシュトゥーバが土岐の目を射るように見つめながらゆっくりと話しかけてきた。
「直接欲しい資料ではないんですが、この国の財政状態はどうなんですか?」
「たぶん、日本の千分の一の規模もないと思う。生活最低水準にある大半の国民から所得税を徴収することはできない。一般消費税は徴収モラルが低くて、賦課できる状態ではない。結局取りやすいところから物品税を取るしかない。この国は島国だから、輸出入関税がもっとも徴収しやすいが、輸出税だと国内業者から徴収しなければならないので、結局、輸入関税に財政を依拠せざるを得ない。したがって恒常的に財政赤字に見舞われている。赤字国債を発行しても中央銀行以外に引き受け手がないので、この国の経済はつねにインフレ気味だ。中国やインドほど人口もないから、経済規模も小さく、義務教育の6年すら十分に浸透していない状態では、外資を導入することもままならない。現状ではアジアの他の諸国の経済成長のおこぼれを頂戴する以外に経済成長のとっかかりがつかめない」
 発展途上国の経済社会開発は土岐の専門ではあるが、実態と学問の間には埋めきれない懸隔があった。土岐はそのことを話さないではいられなかった。