「もう、五年ぐらいになるでしょう。祖国のためにと考えて帰ってきたけれど、なかなか思うようにいかない。あとからアメリカに来た後輩はそのままアメリカに残ってしまった。彼の気持ちも分からないことはない。彼を責める気にはならない。いずれは、帰ってきて祖国のために働いてくれると信じている。・・・でもアメリカという国はあわれな国だと思っている」
「どうして?」
と丸山がすかさず聞いた。シュトゥーバはそう聞かれることを待っていたようだった。
「アメリカに初めて着いたとき、空港から大学のゲストハウスまで、タクシーに乗った。夜だったし、初めての土地だから、どこをどう走ったのか、皆目分からなかった。空港で乗るときの口約束では50ドルだったので、到着したときに50ドル札を出して、降りようとした。すると運転手は、
『5ドル札だ』
と言って、渡した紙幣を突き返してきた。見ると確かに5ドル札だった。そこで財布を確認すると、50ドル札はあと一枚しかなかった。空港で50ドル札を二枚両替していたので、わたくしが5ドル札を渡すことはありえない。空港で、50ドル札二枚あるのを確認していたので、運転手の嘘であることに気づいた。気づいたときに、その運転手に対して深い哀れみの感情を抱いた。人を欺いてまでして、50ドルが欲しいというさもしい行為に哀れみを覚えた。わたくしの国では、逆のことが起こる。つまり、5ドルでいいところを50ドル支払って、タクシーを降りようとすれば、運転手は追いかけてきて釣りの45ドルを持ってくる」
黙って聞いていた丸山が確認するように訊ねた。
「そういうさもしい心しかもっていない運転手に同情したということですか?」
丸山の半袖が扇風機の生暖かい風に時折、思い出したかのようにひらめいている。
「どうして?」
と丸山がすかさず聞いた。シュトゥーバはそう聞かれることを待っていたようだった。
「アメリカに初めて着いたとき、空港から大学のゲストハウスまで、タクシーに乗った。夜だったし、初めての土地だから、どこをどう走ったのか、皆目分からなかった。空港で乗るときの口約束では50ドルだったので、到着したときに50ドル札を出して、降りようとした。すると運転手は、
『5ドル札だ』
と言って、渡した紙幣を突き返してきた。見ると確かに5ドル札だった。そこで財布を確認すると、50ドル札はあと一枚しかなかった。空港で50ドル札を二枚両替していたので、わたくしが5ドル札を渡すことはありえない。空港で、50ドル札二枚あるのを確認していたので、運転手の嘘であることに気づいた。気づいたときに、その運転手に対して深い哀れみの感情を抱いた。人を欺いてまでして、50ドルが欲しいというさもしい行為に哀れみを覚えた。わたくしの国では、逆のことが起こる。つまり、5ドルでいいところを50ドル支払って、タクシーを降りようとすれば、運転手は追いかけてきて釣りの45ドルを持ってくる」
黙って聞いていた丸山が確認するように訊ねた。
「そういうさもしい心しかもっていない運転手に同情したということですか?」
丸山の半袖が扇風機の生暖かい風に時折、思い出したかのようにひらめいている。


