フィジビリティスタディ

と言い訳のようなことを言う。土岐の耳には、商品を取り違えて誤っているスーパーのレジ係の話のように聞こえた。職業だからその言葉に情動が感じられなくても仕方がないのかもしれないが、土岐の癇にさわった。
 霊安室は廊下の突き当たりにあった。窓も備品もない殺風景な部屋だった。薄暗い照明の下で母の顔は深い眠りについているようにしか見えなかった。
 立ちすくむ土岐の傍らで、看護師が囁くように言った。
「この病院と契約している葬儀社のほうで、あとのことは万事やってくれると思うんですが、・・・よろしいですね」
「・・・よろしいって・・・なにがですか?」
と土岐は言葉の棘を隠そうとしなかった。
「末期の水とか死化粧とか・・・その葬儀社に連絡してよろしいですか?それとも、どこかの互助会か何かに入っていますか?・・・一応、この病院内のことは、契約している葬儀社にお願いすることになっているんですが・・・」
「その葬儀社で構いませんが、・・・しばらく二人だけにしてもらえますか」
と土岐はこみ上げてくる怒りに声を震わせた。
 看護師に罪はないとは思うが、彼女の言葉に土岐の神経が逆なでされた。彼女にとっては多くの死の中の一つに過ぎない。そうであれば、そういう情感しか言葉に込めることはできない。頭の中では分かってはいるが、こみ上げてくる感情の高ぶりを土岐は押さえ込むことができなかった。
 看護師は霊安室を出た後、しばらくして母の私物を持って戻ってきた。ベッドの枕元の小さなテーブルの上に土岐が持参した買い物袋と母のエプロンを畳んで置いた。それから母の両手を胸の前で組ませた。
「清拭はこちらでしてもいいんですが、・・・いま救急外来の方で手がないもので、・・・申し訳ないです。・・・葬儀社への連絡は、そこの内線電話でお願いします」
 と言い残し、電話器を指差して出て行った。電話器の傍らには連絡先の電話番号が、いくつか印刷されて、置いてあった。
 土岐は、母の顔を漫然と見続けた。そのうちに、母が土岐に、ことあるごとに繰り返し言い続けてきた言葉が思い出された。
 「つまらない生き方をするんじゃないよ」
 「どうでもいいような生き方をするんじゃないよ」
 「世間さまに恥ずかしいような生き方をするんじゃないよ」
 「自分で自分を裏切るような生き方をするんじゃないよ」