フィジビリティスタディ

と岩槻は言ってくれたが、土岐にまったく責任がないとは言えない。自分でも自覚はしているが、専務理事の萩本に限らず、土岐は、どんな人とでも良好な人間関係を維持し続けるという能力に決定的にかけている。媚びへつらうということができない。お追従も言えない。そうすれば相手が喜ぶであろうと承知していても、確信犯的に甘言を弄することができない。そうすることができなかったという意味では、自業自得のきらいがないわけでもない。
 そのとき看護師が集中治療室から走り出て来た。とがめるような目つきで、携帯電話を耳にあてている土岐の前に立ち止まった。
「すいません、これで切ります。夜遅く失礼しました」
と口早に言って携帯電話のスイッチを切った。携帯電話を切り終わらない前に、看護師が言いとがめるように話しかけてきた。
「病院内では携帯の電源は切ってください」
 土岐は慌てて携帯電話の電源をオフにした。看護師はそれを見届けて、
「患者さんはしばらく、入院していただくことになると思いますが・・・おうちに、他にどなたかおられますか?」
「いえ、わたしだけです」
と土岐はすまなさそうに言った。言ってから、なんですまなさそうに言わなければいけないのかと自問した。
「とりあえず、今夜は救急病棟ですが、明日、様子を見て一般病棟に移っていただくことになると思います。ここに、持ってきていただきたいもののリストがありますので、明日の午後に、ご持参いただけますか?」
 そう言いながら看護師は、寝巻、着替え、洗面用具、保険証、救急費用などが箇条書きされたリストを土岐に事務的に手渡す。いつもそうしているような、言い慣れた言葉と幾度も繰り返されたような所作だった。土岐が帰ろうとすると、
「あ、それから、この用紙に書き込んでいただけますか?」
と言いながら、看護師は受診者カードを差し出した。土岐はそのカードの空欄に母に関する情報を書き込んだ。連絡先には、土岐の携帯電話を記入した。

十四 投函者

 その夜、土岐は自宅に引き返した。自宅の借家にはいつも母といた。いつも母の生活の気配を感じていた。その母が、今夜はいない。ひんやりとした夜気に底知れない寂寥が漂っているような気がした。
 土岐はパソコンを立ち上げて、メールをチェックしてみた。
〈Kakusifile〉