フィジビリティスタディ

 待っている間に右手でネクタイを緩めた。首筋と喉元から冷気が侵入してきた。ぞくぞくっとしたので、左の肩で携帯電話を抑え、両手でネクタイをすこし締め直した。しばらくして、岩槻が出てきた。
「あ、土岐君」
「夜分恐れ入ります。先ほど、お電話をいただいたそうですが・・・」
「先ほどと言うか、夕方過ぎだったと思うけど、・・・君は帰っていると思ったけど、・・・お母さんが出られて・・・」
「帰りがけに、扶桑総研の鈴村さんにお会いしてきたもんで・・・」
「そう・・・君の文科省の審査の件だけど・・・その後、周りをあたってみたら、どうも誰かが手を回したようだ。名前までは分からないが・・・」
「やっぱり、そうでしたか」
「心当たりがあるの?」
「ええ、まあ、なんとなく・・・」
「学長と学科長予定者の村角にも聞いてみたけど、彼らもまったく知らないようだった」
「でも、何でそんなことをするんでしょうかね。たぶん、その人にとって、わたしを新学科のスタッフからはずすことは、何の利益もないはずなんですがね」
「きっと君はねえ、その人の不興をかったんじゃないかな。文科省に手を回せるほどの人物だから、それなりの人だとは思うけど・・・まあ、そこにもここにもいるという訳ではないが、・・・いるんだよね、そういう人って。・・・溜飲を下げるためというか、自分の腹の虫をおさめるためにだけ、持てる権限や権力の限りを使いまくるという・・・自分の腹の虫がおさまるのが、その人にとっての利益と言えは利益なんだろうけどね。・・・それなりの人物ではあろうが、誰もが煙たがっているような人物だ、たぶん」
と岩槻は他人ごとのように淡々と言う。
「そうですか、ありがとうございました。・・・これは、また、お願いなんですが・・・来年4月以降の職がなくなりそうなんで、お心当たりがあれば、ご紹介ください」
「あれっ、東亜クラブはどうしたの?」
「金井さんの後継の事務局長が部下を引き連れて来るそうです。わたしのいまのポストはその部下の人にあてられるそうです。先生には、せっかく、いまのポストを紹介していただいたのに、申し訳ありません」
「まあ、それは君の責任ではないだろうとは思うけど・・・」