フィジビリティスタディ

 その話は以前聞いたことがあったが、一条の光を求めて、土岐は問い質さずにはいられなかった。
「ACIがらみって、いいますと?」
「今回の国鉄電化プロジェクトで、財務分析にうちが一枚からんでいるということにACIが執着したんで、・・・
『それじゃ、これからも、ODA関係の財務分析はうちでやりましょう』
ということになっていたんだ。そうなれば、
『英語のできない砂田君じゃ、きついだろう』
ってんで、部長会議で、
『一人、財務分析用に採ろうか』
という話が出ていたんだ。これが、本決まりになれば、当然君を第一候補にして打診するところだったんだが、・・・先日、向こうさんから、
『その話はなかったことにしてくれ』
という連絡があった。理由を言わないんで、・・・訳が分からないんだけど・・・」
 言いたくなかったという思いが、鈴村のしんみりとした表情に表れていた。土岐の頭の中で、神経繊維が何本か切れるような微かな痛みが感じられた。
「わたしのレポートがまずかったんでしょうか?」
「そうなのかどうなのか、・・・なんらかの社内事情なのか・・・いくら聞いても言ってくれないんで・・・まあ、口約束だけで、ACIと正式に契約していたわけでもないし・・・そういうことで、・・・でも、君は貴重な戦力なんで、専門的な人手が足りなくなったら是非また協力して欲しい」
と鈴村は手のひらを返したように努めてあっけらかんとして言う。この話題からはやく逃れたいようだった。たしかに土岐にとってありがたくない情報をもたらした元凶は鈴村ではない。彼はそのことを早く忘れたいようだった。そのためには、彼の前に座っている土岐の表情から曇りが消えなければならないが、そういう芸当は土岐の得意とするところではなかった。土岐の顔色をうかがいながら話す鈴村の話に歯切れの悪さを感じた。何か言いよどんでいる気配を感じた。ものごとにあまり拘泥しないのが鈴村のいいところだが、いまはその言葉に虚しい響きしか感じられない。
「お邪魔しました」
と言いかけて、折りたたみ椅子を壁にかけたところで、鈴村がやっと本音の重い口を開いた。
「これは、・・・わたしの想像だが・・・今回の電化プロジェクトが、ひとまず、おじゃんになったのが効いたのかもしれないね」
 土岐は立ったまま、鈴村を斜め上から見下ろした。
「えっ、・・・駄目だったんですか」