八王子駅で降りて、近くのスーパーマーケットでペットボトルの安い焼酎とスナックを買った。帰宅してから、その焼酎をコーラで割って数杯飲んだ。滅多に晩酌はしないので、何かがあったことに母は気づいて、しつこく聞いてきた。
「おまえ、なにかあったのかい?」
「なにもない」
「そんなことはないだろう。おまえが自分で酒を買ってきて呑むなんてことは、ここに引っ越してきてから一度もなかった」
「なにもない」
「言ってごらん。・・・言えば少しは楽になるよ」
「なにもない」
「なにかしでかしたとしても怒らないから・・・」
「なにもしていない」
と土岐は言い張って、しらをきったまま、したたかに酩酊して床に入った。アルコールの棒で頭を殴られたような感覚があった。専任教員を不適格と審議されたことを考えるとなかなか寝付けなかった。全人格を否定されたような気がした。そのうち考えることを変えて、事務局長職への昇進の可能性を思い描くと、知らないうちに寝入っていた。
翌日の火曜日の午前中、理事長室で、また金井から話があった。専務理事が出勤する前だった。最初はさえない顔をしていると感じたが、話を聞いているうちに同じ金井の顔が申し訳なさそうな同情の表情に見えてきた。
「きのうの夜、専務理事から私の自宅の方に電話があって、・・・私の後任が内定したそうです。専務理事が経産省にいたときのノンキャリの部下で、外務省からの出向だった人で、・・・それはそれでいいんですが、その人が、
『どうしても、もう一人直属の部下だった外務省のノンキャリの人を連れて行きたい』
と言ってるらしいんで、・・・そうすると予算的に、それだけで人件費がいっぱいになってしまうんで、・・・たぶん、君については、いまのところ来年度の契約を更新するのが難しいような状況になりそうで・・・」
金井の話を聞きながら、専務理事が土岐の机の脇を通り過ぎるときの表情を思い出していた。東亜クラブの業務がないとき、土岐はいつも研究論文を読んでいたり、非常勤講師の授業の準備をしていたりしていた。
(なにやってんだ?おまえ)
「おまえ、なにかあったのかい?」
「なにもない」
「そんなことはないだろう。おまえが自分で酒を買ってきて呑むなんてことは、ここに引っ越してきてから一度もなかった」
「なにもない」
「言ってごらん。・・・言えば少しは楽になるよ」
「なにもない」
「なにかしでかしたとしても怒らないから・・・」
「なにもしていない」
と土岐は言い張って、しらをきったまま、したたかに酩酊して床に入った。アルコールの棒で頭を殴られたような感覚があった。専任教員を不適格と審議されたことを考えるとなかなか寝付けなかった。全人格を否定されたような気がした。そのうち考えることを変えて、事務局長職への昇進の可能性を思い描くと、知らないうちに寝入っていた。
翌日の火曜日の午前中、理事長室で、また金井から話があった。専務理事が出勤する前だった。最初はさえない顔をしていると感じたが、話を聞いているうちに同じ金井の顔が申し訳なさそうな同情の表情に見えてきた。
「きのうの夜、専務理事から私の自宅の方に電話があって、・・・私の後任が内定したそうです。専務理事が経産省にいたときのノンキャリの部下で、外務省からの出向だった人で、・・・それはそれでいいんですが、その人が、
『どうしても、もう一人直属の部下だった外務省のノンキャリの人を連れて行きたい』
と言ってるらしいんで、・・・そうすると予算的に、それだけで人件費がいっぱいになってしまうんで、・・・たぶん、君については、いまのところ来年度の契約を更新するのが難しいような状況になりそうで・・・」
金井の話を聞きながら、専務理事が土岐の机の脇を通り過ぎるときの表情を思い出していた。東亜クラブの業務がないとき、土岐はいつも研究論文を読んでいたり、非常勤講師の授業の準備をしていたりしていた。
(なにやってんだ?おまえ)


