「それに,聞くところによると東亜クラブの存続は危ないらしいね。沈みかけた船からは最初に鼠が逃げ出すというけど,金井さんは鼠ということかな。そういう情報は君より早くキャッチしているだろうし・・・これは、仄聞だけど、金井さんの子供は難病らしいね。保険がきかないんで、大変らしい。・・・じゃ」
「そうですか」
と言い終えないうちに電話は切れていた。いつものように別れの挨拶のないのは岩槻の流儀だった。話を持って来てくれたのは岩槻だったので、不首尾であったことが岩槻自身で面白くないのかもしれない。土岐がいなくなれば、新設学科に赴任してきたとき、顎で使える子分がいなくなる。専任教員としての土岐の存在は、岩槻にとってなにかと便利なはずだった。金井の子供が大変らしいということは、いつだったか福原から小耳にはさんでいた。そのときは、
「金井さんのお子さんって、問題みたいよ」
というような話だったので、土岐は不良か、不登校か、勉強嫌いかぐらいに思っていた。
1時間ぐらい、なにも手につかない放心状態が続いた。スカスカの空白が脳裏に広がっていた。徐々にではあるが、新設学科の専任教員の就職口がご破算になった現実を受け止めようとする心理状態になろうとしてきた。専任教員のメンバーからはずされた理由は考えても仕方のないことだし、愉快なことではないので忘れようと努めた。忘れるために、金井のあとの事務局長ポストのことを考え始めた。
(金井さんがいなくなると事務局長をだれがするのか?専務理事が息の掛かった天下りを呼び込みそうだが、それができなければ、ぼくに声の掛かる可能性もあるかもしれない。現時点ではほかに人材はいない)
大学就職を母に伝えることを楽しみにしていたが、その可能性がなくなった以上、東亜クラブの事務局長就任に希望を繋ぐことにせざるを得なかった。事務局長になれば月給も倍近くになるので、生活にかなりゆとりが生まれる。一日中、節約のため外出することなく、白内障の眼で朝から晩までテレビを見ている母に白内障の手術を受けさせ、温泉旅行のような、テレビ以外の楽しみを提供することができるかもしれない。お金をあげても使おうとはしないだろうが、嬉しそうな顔をするであろうことは想像できた。親孝行を何一つしていないという強く、後ろめたい思いが土岐にはあった。
「そうですか」
と言い終えないうちに電話は切れていた。いつものように別れの挨拶のないのは岩槻の流儀だった。話を持って来てくれたのは岩槻だったので、不首尾であったことが岩槻自身で面白くないのかもしれない。土岐がいなくなれば、新設学科に赴任してきたとき、顎で使える子分がいなくなる。専任教員としての土岐の存在は、岩槻にとってなにかと便利なはずだった。金井の子供が大変らしいということは、いつだったか福原から小耳にはさんでいた。そのときは、
「金井さんのお子さんって、問題みたいよ」
というような話だったので、土岐は不良か、不登校か、勉強嫌いかぐらいに思っていた。
1時間ぐらい、なにも手につかない放心状態が続いた。スカスカの空白が脳裏に広がっていた。徐々にではあるが、新設学科の専任教員の就職口がご破算になった現実を受け止めようとする心理状態になろうとしてきた。専任教員のメンバーからはずされた理由は考えても仕方のないことだし、愉快なことではないので忘れようと努めた。忘れるために、金井のあとの事務局長ポストのことを考え始めた。
(金井さんがいなくなると事務局長をだれがするのか?専務理事が息の掛かった天下りを呼び込みそうだが、それができなければ、ぼくに声の掛かる可能性もあるかもしれない。現時点ではほかに人材はいない)
大学就職を母に伝えることを楽しみにしていたが、その可能性がなくなった以上、東亜クラブの事務局長就任に希望を繋ぐことにせざるを得なかった。事務局長になれば月給も倍近くになるので、生活にかなりゆとりが生まれる。一日中、節約のため外出することなく、白内障の眼で朝から晩までテレビを見ている母に白内障の手術を受けさせ、温泉旅行のような、テレビ以外の楽しみを提供することができるかもしれない。お金をあげても使おうとはしないだろうが、嬉しそうな顔をするであろうことは想像できた。親孝行を何一つしていないという強く、後ろめたい思いが土岐にはあった。


