フィジビリティスタディ

「それから、これは今週いっぱいでいいんだけど、先週の金曜日の講演録を原稿に起こしてもらえるかな」
「はい。分りました」
と土岐は力なく答えた。土岐は、なにも考えることができずに、自分の机に悄然と戻った。すぐ外線があって、福原が電話を取り次いでくれた。
「岩槻です。いま、いいかな」
といつものように挨拶も前置きもない岩槻の声だった。
「おはようございます。いま、だいじょうぶです」
と心の動揺を推し量られないように土岐は感情を殺して言った。
「きのうの夜、新学科主任予定者の村角先生から電話があって、・・・君の文科省の審査だけど、委員の一人から、言いがかりがついてね、業績が不足しているという理由で、差し替えを要求されたようだ」
「さっき、聞きました」
「金井事務局長からかな?」
「ええ」
「まあ、急を要するんで、君が持っている講座を以前担当していた金井事務局長で間に合わせようということで学長が本人に打診したら、二つ返事でOKが出たそうだ。わたしゃ、君に講座を譲ったくらいだから金井事務局長にその気はないかもしれないと思っていたが、・・・そうじゃなかったようだ。ようするに、非常勤は講師料も安いし、時間も食うし、ということで君に譲ったが、専任教員なら話は別ということのようだ。教授で申請するか、准教授で申請するか、学長の判断次第だが、そうすると教員構成上、ただでさえ少ない専任講師がさらに少なくなるわけで・・・平均年齢もあがるし、・・・君をリジェクトした理由がよう分からん」
「いろいろお世話いただき有り難うございました。業績の少ないのはわたしの責任ですから・・・自業自得だと思います」
と感情を押し殺すように話しながらも、体中の血管は激しく拡張と収縮を繰り返していた。
「いやあ、クレームをつけた審議委員は、国立大の先生らしいんだが、・・・そういう場合は、自分の弟子をねじ込むのが一般的だが、・・・ちょっと調べたところでは、金井事務局長とその審議委員の先生とは同窓ではあるが、直接関係はなさそうだ。金井さんとは学部も違うしね・・・まあ、同窓だからどこかで繋がっているのかもしれないが・・・そのうち、新学科主任予定の村角先生から君に正式に断りの連絡があるかも知れないけど・・・」
「また来年どこかの大学にアプライします。今回は本当にいろいろと、ありがとうございました」