フィジビリティスタディ

「もともと、金井さんが担当されていた講座ですから、・・・でも、・・・申し遅れましたが、いまその大学の国際経済学部に学科を新設する計画がありまして、文科省に申請している新学科でのわたしの担当予定科目に国際協力論が組み込まれているので、現在の学科と新学科とで、同一科目名で担当されるということですか?」
「あれっ、・・・岩槻先生から聞いていなかったのかな?・・・この件については・・・詳しいことは岩槻先生がご存知だと思うんで・・・まだ、内定なんだけど、私は来年から専任教員として、その科目を担当することになっています」
 嫌な予感がした。突然、目の前から理事長室のすべての色彩と音声が消えた。金井の顔も濃紺の背広も新聞の白黒写真のように脱色して見えた。急に視界が狭まり、金井の口元しか見えなくなっていた。耳の奥で軋むような金属音がした。クッションの効いたソファーの上で上体が重心を失って、回転速度を失った停止寸前のコマのように螺旋運動しているような気がした。激しい脱力感とともに、心から遠く離れたところから、やっと出てきた土岐の言葉は、
「・・・それは、・・・おめでとうございます。金井さんなら実務家としての業績が豊富ですから、新学科のメンバーとして最適だと思います」
という金井の大学就職を祝う言辞だった。
「いやあ、そう言ってくれるのはありがたい。君のことは今後ともケアしていくので、とにかく業績を増やしてください。こう言っちゃなんだが、うちの仕事はそれほど忙しくないので、これからもおおっぴらに内職して構いませんから・・・福原さんの目は多少気になるかもしれないけど、私が公認しますから・・・」
と金井は言うが、言葉の意味と声音の情感が一致していなかった。
「ありがとうございます。いつも後ろめたい気持ちで論文を読んでいました」
と言うと、金井はばつが悪そうに伏し目がちに立ち上がった。そのとき、福原がめずらしく、コーヒーを淹れて理事長室に入ってきた。外来の客がいないときに、コーヒーを淹れてくれることは滅多になかった。
「どうもありがとう。そっちで飲むから・・・」
と金井は福原の入室を制した。福原は様子をうかがうためにコーヒーを淹れてきたようで、
(なんだ、つまらない)
というような落胆の色が顔に出ていた。
 理事長室を出るときに金井がついでのように土岐に声をかけた。