フィジビリティスタディ

と呟く。講師料に規定はないが、多少名の知れた講師の場合は、通常の講師料の数倍になることはある。しかし、その大学の理事長はそれほど高名というわけではない。講演のテーマも、
「大学のアジア戦略」
で、東亜クラブの会員企業が食指を動かすようなものでもなかった。実際、出席のメールを送って来たのは十数社で、通常の講演会の半分もなかった。
 その翌週の月曜日の朝、東亜クラブの事務所に出勤すると、金井に手招きされた。金井はそわそわとして、なんとなく落ち着きがない。深刻そうな、しかし、いまにも笑い出しそうな、言いようのない複雑な表情をしていた。窓際の応接セットに腰掛けようとすると、理事長室のドアを指差した。福原に聞かれたくない話だと直感した。土岐はドアを閉めた。
 いつもの朝のように理事長室には誰もいなかった。寒いというほどではないが、まだエアコンの暖房を入れてないのでひんやりとする。専務理事はあと一時間もしないと出勤してこない。
 理事長室の応接セットに相対で腰掛けると、金井が短い手を腹の前で組んで話し出した。
「けさ、銀行の方に扶桑総合研究所から入金がありました。とりあえず、現地滞在分だけで、報告書作成費は後日ということで、半額だけですけど、・・・まあ、報告書の作成、ご苦労様でした。全部英文だから大変だったでしょ」
と言葉では土岐の労をねぎらっていたが、表情はまったく違うことを語ろうとしていた。とりあえず、土岐は謙遜した。
「いえ、小説とは違いますから、凝った表現も必要ないし・・・むしろ、平明な英文でないと誤解のもとになりますので・・・それに財務分析の場合、数字自身にものを言わせるということで、使うボキャブラリーはそれほど多くないので・・・実際、中学生程度の文法と単語で書きました」
「そう・・・話は違うけど、いま君にお願いしている春学期だけの非常勤講師の講座だけど、・・・大学の学長から急な話があって、・・・来年度から、国際協力論を通年で私にまた担当して欲しいということなんですが、・・・よろしいですか?」
 土岐はまったく想定していなかった話なので、どう返答していいか一瞬分からなかった。どういう話が学長から金井にあったのか、まったく想像がつかなかった。とりあえず、