フィジビリティスタディ

 @財務分析、ご苦労様でした。残りの九十万円については、もうしばらくお待ちください。これは、最後の依頼ですが、当方でもこのプロジェクトについて検討したところ、ODAの対象とすべきではないという結論に至りました。とくに、ACIについては、従来から外国政府に賄賂を渡して、海外プロジェクトを受注するなど、不明朗な情報が錯綜しており、今回のプロジェクトは金額的にかなり巨額になることが予想されるので、野党や国税庁や会計検査院の追及の対象になることを事前に防ぐという観点から、現地での大使館やプロジェクト・マネージャーの容喙を排除した正しい財務分析を現地国鉄側に開示してください。方法は問いません。その結果報告をまって、残金と現地での経費をお支払いいたします。以上@
 
 シュトゥーバの粗末な模造紙のような名刺を見ながら、土岐は当初の財務分析内容をどうやって開示できるか、考えた。現地国鉄への報告書にその内容を訂正したうえで盛り込むことは、王谷の手前、不可能であるように思えた。財務分析の内容が誤りであったという手紙を、国鉄総裁あてに書いた場合、それが理由でプロジェクトが頓挫したとなれば、扶桑物産の南田や現地大使館の白石や西原がその原因を突き止め、ACIから扶桑総合研究所を通して、激しいクレームの付くことが予想される。扶桑総合研究所が契約書の忠実義務違反だとして、土岐の人件費を支払わないと言って来る可能性もある。ACIが扶桑総合研究所への支払いを拒めば、扶桑総合研究所も東亜クラブへの支払いを拒まざるを得なくなるだろう。そうなれば、その原因は土岐が国鉄総裁宛てに書いた手紙の内容にあるという理由で、東亜クラブを1週間不在とした間の給与返済を求められるかもしれない。
 しかし、何もしないで手を拱いていれば、残金の九十万円が受け取れず、シュトゥーパの息子にあげた数万円も経費として請求できなくなる。
 
 勤務時間が終わり、帰宅時間となっても、土岐は妙案を思いつかなかった。
土岐は窓の外の真っ暗な東京湾をぼんやりと眺めていた。思案が極まって、何も手に着けることができなかった。金井の後ろのはめ殺しの分厚い窓の外に広がる空が漆黒に塗りこめられていることに気付いた。不意に体がなんとなく重くなると同時に、脱力感と空腹を覚えた。