フィジビリティスタディ

 といやみともつかない、しらっとした表情で言う。土岐はあわてて、
「すいません。忘れていました」
と言いながら、東亜サロンの中村に買ってきた分を気まずい思いで手渡した。その一件がなんとなく胸に引っかかったが、作業自体は東亜クラブとは直接関係がないものの、普段こそこそと研究論文を読むのとは異なり、扶桑総合研究所との契約に基づくものなので、正々堂々と作業を進めた。英語は得意ではないが、英文学とは違って、凝った形容詞や微に入り細をうがつような表現は必要ないので、臆面もない直訳ばかりの作業ははかどった。ときどき英作文が難渋するとネットのフリー翻訳サイトを利用した。
 土岐に割り当てられたのはファイナル・レポートのチャプター8のフィナンシャル・アナリシスだった。セクション1をイントロダクションとし、電化による経済利益を記述した。セクション2を収入にあて、セクション3を費用とし、セクション4で財務分析を行い、最後のセクション5で債務返済計画をまとめた。第一次草稿はその日の夕方までになんとか完成した。
 翌火曜日の午前中は表計算ソフトのグラフツールを使って暦年ベースの収入と費用、それに基づくキャッシュ・フロー表および債務返済のこぎれいな一覧表の作成に時間を費やした。午後はそれらの数表を多色刷りのわかりやすい棒グラフと折れ線グラフに描き分けて、グラフごとに本文とは別に解説の短いキャプションを付けた。一通り終わってから、目盛りを変えたり、フォントを拡大させたり、縮小させたり、カラーリングを変えたり、さまざまなグラフの表示を試したりして、最適と思われる図表を選択した。
 夕方、帰宅する間際になって、シュトゥーバの質問に対する回答を書いていないことに気づいたが、どう盛り込めばいいのか、アイディアが浮かばなかった。