フィジビリティスタディ

と言う母の声に起こされた。電話に出ると、新設学科の申請の審査は順調に進んでいるとの情報だった。岩槻が頻繁に情報を提供してくれる裏には、専門科目の講義の始まる3年目までの新設学科の内部情報提供について土岐に対する期待があるものと認識している。岩槻はいまの大学を2年後に定年になり、3年後に新設学部に着任する予定になっている。
「鈴村君に聞いたけど、昨夜、帰国したんだって?」
と受話器から聞きなれた、甲高いしわがれた声が流れてくる。土岐は布団に横たわったまま返答した。
「ええ、S国の首都の国鉄電化計画のフィージビリティ・スタディです」
「その話、半年前にあればよかったのにね。・・・まあ、文科省の審査は大丈夫だとは思うけど、・・・君の場合、論文業績がちょっと少ないからね」
「申し訳ありません」
「いや、べつに誤るようなことではないけれど・・・誰だって若い頃は業績が少ないもんだよ。ただ、大学設置審議会の連中が、けちをつけようと思えは、つける材料にはなるな」
「文科省に提出した業績調書の再提出はできないんですか?」
「できないこともないが・・・提出の締め切り時点までの業績履歴だからね」
「いつごろ、はっきりするんでしょうか?」
「内示は十一月ごろあると思うけど・・・設置審議会の内部では再来週あたりに原案が提出されるんじゃないかな。・・・まあ、ほぼ大丈夫だとは思うけど・・・まあ、就職の斡旋は、指導教員の暗黙の義務と言えないこともないからね」
「今回も、いろいろとありがとうございました。感謝しております」
「まっ、そういうことで・・・」
「お電話、わざわざ有り難うございました」
と言いながら、受話器が置かれるのを待った。そのやり取りを台所で母が聞いていた。
「岩槻先生、なんだって?」
とマナ板で何かを刻みながら言う。
「勉強の話だ」
と誤魔化した。母には大学教員の内定が得られてから伝えることにしている。現在の状況を話せば、それなりに喜んでくれることは予想できたが、万が一、不調に終わった場合に母のぬか喜びが深い落胆に変わることを土岐は恐れた。