昨夜の打ち上げをすっぽかしたので、王谷の隣にいて、土岐はなんとなく気まずい思いがした。黙っていると、はじめて王谷の方から話しかけてきた。
「来週の木曜日までに、メールの添付ファイルで丸山君あてに財務分析の報告書を送信してもらいたい。第1章がわしの担当で序章、第2章が中井君の担当で需要予測、第3章が山田君の担当で運行システム、第4章が松山君と川野君の担当で電化システム、第5章が浜田君と畠山君の担当で電信・信号システム、第6章がそこの丸山君の担当で土木作業、第7章が吉川君と高橋君の担当で維持運営システム、最後の第8章があんたの担当で財務分析、という構成になっている。内容的にはきのうのプレゼンでいいんだが、くれぐれも文中にプロジェクトの採算性に疑問を抱かせるような文言は入れないように・・・いいかな」
と王谷はメモ用紙に書き込まれた目次を見ながら言う。土岐にとっては、
「はい」
としか言いようのない押し付けがましい口調だった。
「あんたにとっては、ただの報告書かもしれんが、このプロジェクトには多くの人の生活が懸かっている。大使館の白石さんや西原さんにとって、このプロジェクトが昇進の糸口になる。かりに人事考課の対象とならないとしても、業界と太いパイプができる。こうした民間とのパイプは官僚の今後の人生にとってとてつもなく重要だ。扶桑物産の南田さんもこのプロジェクトを足がかりに、日の当たる国への転勤を計画している。そこの丸山君だってそうだ。何よりもこのプロジェクトで多くの国内業者が潤う。それが巡り巡って、納税者たるすべての国民の懐を潤す。わしらは戦後一貫してこういうやりかたで高度経済成長を支えて来た。援助額は国会の予算審議の対象だから、日本の国会もそれをずっと承認してきた。援助は援助される国のみでなく、援助する側の国にもそれなりの貢献をしてきたんだ」
土岐は黙って聞いていた。援助する側に立った論理を展開する経済開発論文は読んだことがなかったので、王谷の話には違和感を覚えた。国際政治経済の分野ではよくされる議論ではあるが、それは土岐の専門ではない。
王谷は突然、長袖のワイシャツの左腕を捲り上げた。
「長袖のワイシャツを着ているのは、注射の跡を見せたくないからだ。こんなくそ暑い国に来ても長袖を着ざるを得ない」
と言いながら、土岐に注射の跡で変形しかけた左腕を見せた。
「来週の木曜日までに、メールの添付ファイルで丸山君あてに財務分析の報告書を送信してもらいたい。第1章がわしの担当で序章、第2章が中井君の担当で需要予測、第3章が山田君の担当で運行システム、第4章が松山君と川野君の担当で電化システム、第5章が浜田君と畠山君の担当で電信・信号システム、第6章がそこの丸山君の担当で土木作業、第7章が吉川君と高橋君の担当で維持運営システム、最後の第8章があんたの担当で財務分析、という構成になっている。内容的にはきのうのプレゼンでいいんだが、くれぐれも文中にプロジェクトの採算性に疑問を抱かせるような文言は入れないように・・・いいかな」
と王谷はメモ用紙に書き込まれた目次を見ながら言う。土岐にとっては、
「はい」
としか言いようのない押し付けがましい口調だった。
「あんたにとっては、ただの報告書かもしれんが、このプロジェクトには多くの人の生活が懸かっている。大使館の白石さんや西原さんにとって、このプロジェクトが昇進の糸口になる。かりに人事考課の対象とならないとしても、業界と太いパイプができる。こうした民間とのパイプは官僚の今後の人生にとってとてつもなく重要だ。扶桑物産の南田さんもこのプロジェクトを足がかりに、日の当たる国への転勤を計画している。そこの丸山君だってそうだ。何よりもこのプロジェクトで多くの国内業者が潤う。それが巡り巡って、納税者たるすべての国民の懐を潤す。わしらは戦後一貫してこういうやりかたで高度経済成長を支えて来た。援助額は国会の予算審議の対象だから、日本の国会もそれをずっと承認してきた。援助は援助される国のみでなく、援助する側の国にもそれなりの貢献をしてきたんだ」
土岐は黙って聞いていた。援助する側に立った論理を展開する経済開発論文は読んだことがなかったので、王谷の話には違和感を覚えた。国際政治経済の分野ではよくされる議論ではあるが、それは土岐の専門ではない。
王谷は突然、長袖のワイシャツの左腕を捲り上げた。
「長袖のワイシャツを着ているのは、注射の跡を見せたくないからだ。こんなくそ暑い国に来ても長袖を着ざるを得ない」
と言いながら、土岐に注射の跡で変形しかけた左腕を見せた。


