フィジビリティスタディ

 ホテルに関係者が一人もいなくなってから、土岐は一階ロビーでメール報告を送信した。
 @午前中、午後のプレゼンテーションの予行演習を行いました。プロジェクト・マネージャーの王谷から強い要請があり、プロジェクトの採算を強引に黒字化することを強要されました。午後、プレゼンテーションを行い、プロジェクトは実施すべきという結論を国鉄総裁に報告しました。財務副部長のシュトゥーバから売り上げ予測の前提を知りたいという質問があったが、これには後日、文書で回答すると答えました。このプロジェクトの破綻は財務副部長に期待する以外はないようです。以上@

十 現地第7日目

 その夜は熟睡できた。かなり疲れが溜まっていたようで、翌朝、目が覚めたのは9時過ぎだった。体が重かった。あわてて、荷物を整理して、スーツケースを転がしながら、十時すこし前にホテルの一階に降りて行くと、フロントに丸山がいて、
「チェックアウトしてください」
 と懇願するように言う。土岐は言われるままに、フロントの従業員に714の鍵を手渡し、チェックアウトを申し出ると、請求書が差し出された。傍らの丸山が請求書をのぞきこむようにして言う。
「朝食のとき出てこなかったんで、心配しました」
「すいません。疲れてて寝てました」
「ルームチャージはこちらで出しますので、・・・とりあえず、全額ぼくの方で支払います」
と言いながら、ボトムラインの合計金額にあわせて現地紙幣を出した。
「私的な国際電話とか、夜中のルームサービスとかはありませんか?」
「ないです」
と土岐が答えると、丸山はフロントが差し出した領収書を受取った。
「じゃあ、そろそろ空港へ向かいましょうか」
と丸山はレストランで紅茶を飲んでいた王谷に声を掛けた。王谷はベルボーイに指で合図をして、手元の荷物を車寄せまで運ばせた。片手に丸山の荷物を持った別のベルボーイが土岐のスーツケースを運ぼうとしたが、土岐は断った。車寄せでベルキャプテンがタクシーを指招きし、ベルボーイがトランクに王谷と丸山と土岐の荷物を押し込んだ。丸山はベルボーイとベルキャプテンにチップを手渡した。王谷はすでに後部座席に乗り込んでいた。土岐は王谷の隣に座り、丸山は助手席にすべりこんだ。