フィジビリティスタディ

と国鉄総裁に声を掛けた。国鉄総裁はシュトゥーバに質問をするように促した。シュトゥーバは、事前に配布したスライド画面をコピーしただけの説明資料に目を落としたままで、
「収入予測の前提条件を教えてくれ」
と言いながら、土岐の方に細面の顔をまっすぐに向けてきた。
「収入予測の詳細については、慎重に複雑な計算をして求めておりますので、言い間違えや誤解があるといけないので、後日文書にしてお渡しします」
と土岐はただでさえ英語でもつれる舌にどぎまぎしながら、王谷に言われたとおりに応えた。シュトゥーバの射すように澄んだ瞳を直視することはできなかった。スクリーンの傍らに立っている自分に自分ではない違和感を覚えていた。正直にすべてのことをシュトゥーバに言えないのは、自分の弱さなのか、ずるさなのか、判然としなかったが、心の中が王谷の業務命令で歪められているのを感じていた。
 突然、甲高い拍手が沸き起こった。ころあいを見計らったように最初に拝むように頭の上で拍手したのは王谷だった。拍手しながら誇らしげに立ち上がり、総裁の傍らに歩み寄り、握手を求めている。その光景を見守りながら、副プロジェクト・マネージャーの吉川、オペレーション・エンジニアの山田、トラック・エンジニアの高橋たちが、つられるように立ち上がって拍手する。やや遅れて、主任エレクトリフィケーション・エンジニアの松山、テレコミュニケーション・エンジニアの浜田、シグナル・エンジニアの畠山、エレクトリフィケーション・エンジニアの川野が半拍ずらして拍手している。丸山は喜色を満面に浮かべ、手のひらが赤くなりそうなほど力強く拍手している。最後に、土岐も拍手したが、形だけで、力が入らなかった。万雷の拍手がはるか遠くから聞こえてくるようで、錯覚に思えてならなかった。
 ひとしきり拍手が鳴り続け、それが潮が引くようにして止むと、王谷が国鉄総裁に英語で語りかけた。
「報告書は十日後に製本してこちらに届けます。これでこのプロジェクトが来年から着工されることは間違いありません」