フィジビリティスタディ

「最初に、収入面ですが、乗客一人・1マイルあたりの収入と予想総乗客数・総マイル数を掛け合わせることによって求めました。もとより、運賃は国鉄による政治的な判断で決定されることではありますが、われわれは現行の水準をもとにリーズナブルな金額を想定して計算しました。とりあえず、乗客一人・1マイルあたり1円を想定しました。現在の国鉄の収入は、乗客が7割、貨物が3割になっています。この傾向は今後とも続くものと考えます。需要の増加については経済成長や国鉄の経営努力に伴う自然増が年率3%、一人当たり所得の増加に伴う需要増が年率3%と予測し、それらに伴う物価上昇による運賃の引き上げも勘案しました。物価上昇については過去の消費者物価の趨勢を考慮しました」
と言いながら、運賃単価の表、予想総乗客数・総マイル数の暦年表、需要予測の表、過去の物価上昇の一覧表などを順に見せていった。心臓の激しい鼓動がこめかみに伝播しているのがわかった。
「次に、費用面ですが、おもな支出項目は、土木、軌道、建築、電化、信号、電信、機械、機器、車両基地、車両、予備、維持、運営、電気などです。これらの支出項目についても、将来の物価上昇によるコストアップと経営努力によるコスト削減を考慮しました」
 費用面については、とくにコメントすることなく、支出項目別に機械的に見積表を順送りした。丸山の画面送りのタイミングは絶妙だった。
「以上の結果、今回の電化プロジェクトの今後三十五年間の採算については、収入総額が日本円換算で、約三千億円、費用総額が約二千九百億円で、約百億円の黒字が見込めることになりました」
 そこまで説明したところで、感嘆の口笛が国鉄総裁の黒褐色の分厚い唇から漏れた。三十分も経っていないが、彼は聞き疲れしたようだった。瞼も頬も垂れ下がっている。彼にとって内容の難易度が高かったのか、集中力が持続しないのか、隣の王谷と声高に談笑を始めた。王谷は午前中あれほど国鉄総裁を愚弄していたのにもかかわらず、お追従を述べ、愛想良く相好を崩している。
「以上の結果、このプロジェクトは着手すべきであるとの結論に達しました」
と土岐はプレゼンテーションを終わらせた。同時に、丸山が部屋の照明を点け、
「それでは、質問をどうぞ」