王谷はゆっくりと煙を吐き出し、少し考えているようだった。一同の視線が王谷の吐き出す紫煙の行方を追っている。やがて王谷はタバコの灰をゆっくりと灰皿に落としながら、
「『込み入った予測をしているので、速答はできないが、あとで個別にゆっくりと説明します』
とでも言っとけばいい。・・・いずれにしても、プロジェクトの黒字を疑うような質問に対してはその場で回答するする必要は一切ない」
と言い切った。
土岐の腹の底で押さえ込んでも、押さえ込んでも沸々と沸きあがってくる熱いものがあった。そのあと、土木工事費、軌道工事費、建築工事費、駅舎工事費、電化工事費、信号工事費、電信工事費、車両基地建設費、予備費、車両費などの項目別にスライドを見せたが、説明の口上は上滑りしていた。それぞれについて、現地労務費、現地資材調達費、輸入代金、外国人技術者報酬などの明細を形式的に映写しているだけだった。
最後に、収入予測の前提の一覧表を映し出したが、
「これは出さない方がいい」
と王谷に指摘される前に自分の方から割愛を申し出た。そういいながら、忸怩たる思いに苛まれた。プレゼンテーションを終えるに当たり、最後に王谷がダメを出した。
「ディーゼル機関を電気機関に変えることで、かなり石油が節約されるはずだ。その節約分が計算されていないね。そもそも、このプロジェクトの出発点は、省エネにあったんだから」
「確かに、石油が節約されるはずで、その分、現在のランニング・コストよりいくらかは安くなるはずです。わかりました。プロジェクト自体の採算とは直接関係はありませんが、ディーゼルをやめることによって節約される金額を注記しておきます」
「いや、注記じゃなくて、社会会計として、節約分をプラスでカウントしておけば、プロジェクトの採算が改善されるでしょ。どうせ、国鉄総裁には鉄道単体の財務会計と、それ以外の消費者余剰だとか機会費用だとかを含めた社会会計の違いなんか分かりゃしないんだから。いいね、くれぐれも責任者である私の指示に従ってほしい」
と言う王谷の話しぶりには有無を言わせない圧力感があった。土岐は反論することができなかった。財務分析が真実からどんどん遠ざかって行く思いがした。それと同時に、プロジェクトが頓挫した場合の成功報酬としての九十万円も遠のいてゆく喪失感があった。
「『込み入った予測をしているので、速答はできないが、あとで個別にゆっくりと説明します』
とでも言っとけばいい。・・・いずれにしても、プロジェクトの黒字を疑うような質問に対してはその場で回答するする必要は一切ない」
と言い切った。
土岐の腹の底で押さえ込んでも、押さえ込んでも沸々と沸きあがってくる熱いものがあった。そのあと、土木工事費、軌道工事費、建築工事費、駅舎工事費、電化工事費、信号工事費、電信工事費、車両基地建設費、予備費、車両費などの項目別にスライドを見せたが、説明の口上は上滑りしていた。それぞれについて、現地労務費、現地資材調達費、輸入代金、外国人技術者報酬などの明細を形式的に映写しているだけだった。
最後に、収入予測の前提の一覧表を映し出したが、
「これは出さない方がいい」
と王谷に指摘される前に自分の方から割愛を申し出た。そういいながら、忸怩たる思いに苛まれた。プレゼンテーションを終えるに当たり、最後に王谷がダメを出した。
「ディーゼル機関を電気機関に変えることで、かなり石油が節約されるはずだ。その節約分が計算されていないね。そもそも、このプロジェクトの出発点は、省エネにあったんだから」
「確かに、石油が節約されるはずで、その分、現在のランニング・コストよりいくらかは安くなるはずです。わかりました。プロジェクト自体の採算とは直接関係はありませんが、ディーゼルをやめることによって節約される金額を注記しておきます」
「いや、注記じゃなくて、社会会計として、節約分をプラスでカウントしておけば、プロジェクトの採算が改善されるでしょ。どうせ、国鉄総裁には鉄道単体の財務会計と、それ以外の消費者余剰だとか機会費用だとかを含めた社会会計の違いなんか分かりゃしないんだから。いいね、くれぐれも責任者である私の指示に従ってほしい」
と言う王谷の話しぶりには有無を言わせない圧力感があった。土岐は反論することができなかった。財務分析が真実からどんどん遠ざかって行く思いがした。それと同時に、プロジェクトが頓挫した場合の成功報酬としての九十万円も遠のいてゆく喪失感があった。


