フィジビリティスタディ

「あんた、そんな市場で他人が決めたものをそのまま借用するなんて、それじゃ、何のための財務分析なの。あんたフィナンシャル・アナリシス・スペシャリストでしょ。プロジェクトを成功させるためにやりくりするのが財務分析じゃないの?長期金利なんか景気動向次第でいかようにでも変動するでしょ」
「それでは、世界中の金融関係者が膨大な情報を元にして出してきた割引率を無視して、ノートパソコン一台で、わたし独自の割引率を出すということですか?」
と言いながら、声が震え興奮してくるのが自分でも分かった。心臓の鼓動が下半身に伝わり、ひざがすこし震え始めた。
 土岐と王谷のやり取りで、松山が目を覚ましたようだった。両脇に座っている浜田と畠山の顔を見渡して、
(何事か?)
というような寝ぼけた顔をしている。
「あんた独自の割引率というような、偉そうなものではなくて、プロジェクト独自の割引率ということだ」
「と、いいますと・・・」
「あんたも鈍いね。黒字になる割引率ということだ」
 そこで吉川が副プロジェクト・マネージャーという立場で顎をくしゃくしゃさせながら、とりもつように口を挟んだ。
「土岐さん、米国の財務省証券の長期金利が下落する理由付けはいくらでもできるでしょ。たとえばアメリカの財政赤字がさらに拡大して、大量の財務省証券が発行されて、価格が下落して・・・」
と言いかけたところで、野武士のような風貌の山田が笑いながらかすれ声で言った。
「それじゃ、長期金利が逆に上昇しちゃうでしょ」
「あっそうか・・・もとい。アメリカの財政赤字が縮小して、長期債の発行が縮小して、財務省証券の価格が上昇して、長期金利が下落するとか・・・」
 王谷が鼻先で、小馬鹿にしたように、
「ふん」
と笑い、うんざりしたように苛立ち気味に決断を下した。
「そんなことはどうでもいい。土岐君、・・・わしはこのプロジェクト成功の全責任を負っている。だから、わしの指示に従って欲しい。割引率を下げて、このプロジェクトを費用と収入の金額だけで黒字にする・・・いいね。消費者余剰だなんて言ったって、国鉄総裁には分かりはしないんだよ」
 承知せざるを得なかった。王谷の不快さがこめかみの血管に浮き出ていた。
「わかりました。そうします」
と土岐が答えると、馬面の南田が追い討ちをかけるように話し始めた。