作業所に戻ってから、白石に言われたとおり、維持費と運営費について経営努力を勘案し、定率で減少するように金額を修正した。その結果、プロジェクトの現在価値は五十億円の赤字に削減された。西原が主張した消費者余剰の増加を過剰に勘案すれば、社会的な純利益が発生する。しかし、白石のコストの低減にかんする想定は、西原のインフレの勘案と矛盾する。インフレは経済全体の現象だから、運賃のみに物価上昇を反映させて、維持費と運営費には経営努力を考慮して、ゆるやかに反映さるというのは片手落ちになる。インフレによる人件費の高騰とモラルの低下を考慮すれば、経営陣だけの経営努力による経費節減は吹き飛ぶ可能性がある。その結果、プロジェクトの赤字はあまり改善しないことになる。土岐が考えあぐねていると、丸山は心配そうに助言してきた。
「白石さんの意見と西原さんの意見は、わずかでもいいですから、入れてください。わが社は今回のフィージビリティ・スタディは赤字で、この後の本調査で利益を上げる予定なんです。コンサルタント会社を選定するのは、この国の国鉄総裁ですが、この人は日本大使館の言いなりなんで、西原さんと白石さんの心証を害すると、かりにODAが付くことになったとしても、本調査を他社に持って行かれることにもなりかねないんで・・・」
土岐は悩んだ。白石と西原の横やりを財務分析に取り入れれば、プロジェクトの赤字が縮小されて、ODAのつく可能性が高まり、成功報酬の残金の九十万円が遠のく。逆に、かれらの提言を排除して、適正に財務分析を行えば、ACIが本調査の受注を逃し、ACIと扶桑総研の業務委託関係が破談になる可能性がある。その業務は土岐が引き受けることになるので、そうなれば土岐に逸失利益が生じる。金額的にはおそらく九十万円以上になるだろうが、時期的には将来のことであり、不確定性が高い。いずれにしても、時間がたてばたつほど、母の白内障は確実に進行する。
最終的に土岐は西原のインフレの勘案と白石の経営努力による経費節減を個別に財務分析に織り込むことにした。プレゼンテーションでその矛盾を指摘されれば、
「今後の検討課題とします」
と逃げざるを得ない。
土岐は、そこまでのデータをもとにして、プレゼンテーション用の資料の作成を始めた。丸山は傍らで、領収書の束を整理していた。
「白石さんの意見と西原さんの意見は、わずかでもいいですから、入れてください。わが社は今回のフィージビリティ・スタディは赤字で、この後の本調査で利益を上げる予定なんです。コンサルタント会社を選定するのは、この国の国鉄総裁ですが、この人は日本大使館の言いなりなんで、西原さんと白石さんの心証を害すると、かりにODAが付くことになったとしても、本調査を他社に持って行かれることにもなりかねないんで・・・」
土岐は悩んだ。白石と西原の横やりを財務分析に取り入れれば、プロジェクトの赤字が縮小されて、ODAのつく可能性が高まり、成功報酬の残金の九十万円が遠のく。逆に、かれらの提言を排除して、適正に財務分析を行えば、ACIが本調査の受注を逃し、ACIと扶桑総研の業務委託関係が破談になる可能性がある。その業務は土岐が引き受けることになるので、そうなれば土岐に逸失利益が生じる。金額的にはおそらく九十万円以上になるだろうが、時期的には将来のことであり、不確定性が高い。いずれにしても、時間がたてばたつほど、母の白内障は確実に進行する。
最終的に土岐は西原のインフレの勘案と白石の経営努力による経費節減を個別に財務分析に織り込むことにした。プレゼンテーションでその矛盾を指摘されれば、
「今後の検討課題とします」
と逃げざるを得ない。
土岐は、そこまでのデータをもとにして、プレゼンテーション用の資料の作成を始めた。丸山は傍らで、領収書の束を整理していた。


