フィジビリティスタディ

「どうなんでしょう。国鉄の職員だからということではなくて、誰だってそうなりませんか?赤字をこしらえても、全く責任を問われない。しかも、どうやったって、安い運賃設定を政府に強要されていれば、黒字にはならない。だったら、手を抜こう・・・」
 白石が土岐と丸山のやりとりにくぎを刺した。
「モラルの問題は、やりはじめたら収拾がつかなくなる。性善説で考えるしかないでしょ」
 野菜とヨーグルトがテーブルに並べられた。土岐はすこし口に含んでみたが、うまいものではなかった。いずれにしても、タンドリチキンは土岐の口には合わなかった。香辛料の効きすぎが理由だと思われた。かえって食欲がそがれたような気がした。
 白石が話題を変えてきた。
「きのう土岐さんから扶桑総研の名刺をもらったけど、本当の所属は東亜クラブじゃないの?」
「現在は短期出向のような形で、扶桑総研の所属になっていますが、このプロジェクトが終われば、東亜クラブに復帰します」
と答えつつも、白石が土岐の所属を知ってる理由が分らなかった。
「そうすると、ACIと扶桑総研がこの種のODAの事前調査で財務分析について業務提携のようなものを結ぶという、話を聞いたんですが・・・そのたびに土岐さんが短期出向するということですか?」
と丸山が白石の顔色をうかがいながら聞いてきた。
「そのへんはまだ不確定です。じつはいま、大学の新設学科の設置申請で、専任教員の一人として文科省で審査を受けています・・・かりに、来年度から専任教員になってしまうと、あまり自由が利かなくなるので、この種の海外出張は難しくなるかもしれないんです。扶桑総研もODAがらみの財務分析のスタッフがいないようなんで、・・・いまのところわたしについては、なんとも言えない状況です」
「文科省で審査ね・・・知っている連中は結構いるけれど・・・」
と白石は何かを言いかけたが、見下したような含み笑いで語尾を濁した。
 食後、丸山が代金を支払った。白石はそれが当然であるかのように、先に帰って行った。