「天は自らを助ける者を助ける、ということですかね。・・・あっ、それじゃ日本が天ということになって、すこし傲慢になりますね。でも、累積債務が肥大化すると、努力して返済しようという意欲がかえってそがれるという側面もあるんじゃないですか?」
と丸山は一知半解の軽い調子で言う。からかわれたと思ったのか、一瞬、白石の表情のこわばるのが分かった。丸山もそれを察知したようだった。丸山に対する好意のつもりで、
「わかりました。維持費と運営費に生産性の向上を考慮してみます。それ以外にも、収支両面での経営努力も別項目で考えてみることにします」
と思わず言ってしまった。言った後で、土岐は自分の言ったことを修正した。
「でも、どうなんでしょう。これは、文献で得た知識ですが、日本の国鉄の失敗は全く考慮しなくていいんでしょうか?」
丸山がすぐ反応した。
「国鉄って、いまのJR?」
「ええ、・・・国鉄は昨夜、西原さんが言ってた消費者余剰の概念を使って、事業自体は赤字であっても、それから国民が受ける便益が膨大だ、という根拠で、赤字を放置し、その赤字が返済不能になって、制度設計それ自体に誤りがあったということで、民営化されました」
と土岐は耳学問を披露した。
白石は黙って聞いている。丸山は知らないことがあるとすぐ質問してくる。
「制度設計のあやまりって、なんですか?」
「西原さんの話は、乗客サイドだけの話でしたけど、日本の国鉄の制度上の誤りは、赤字が発生した場合、政府が自動的に補填したことです」
「でも、西原さんの議論では、乗客の利益がそれを上回ればいいということじゃなかったんじゃないですか?」
と聞く丸山は聴き上手だった。話し手の腰を折ることなく、適切な質問をしてくる。
「問題は輸送サービスを提供する側のモラルなんです。どんなに不効率なかたちで輸送サービスを提供しても、赤字分は政府が補填してくれるということであれば、効率を高めようというモチベーションがなくなるんじゃないですか。西原さんの議論が正論となるためには、たとえ、赤字分を政府が補填するとしても、またどんなに頑張ったとしても赤字にならざるを得ないとしても、精一杯効率的に働くという前提が必要なんです」
「JRの前身の国鉄にはそのモラルがなかった?」
と丸山は一知半解の軽い調子で言う。からかわれたと思ったのか、一瞬、白石の表情のこわばるのが分かった。丸山もそれを察知したようだった。丸山に対する好意のつもりで、
「わかりました。維持費と運営費に生産性の向上を考慮してみます。それ以外にも、収支両面での経営努力も別項目で考えてみることにします」
と思わず言ってしまった。言った後で、土岐は自分の言ったことを修正した。
「でも、どうなんでしょう。これは、文献で得た知識ですが、日本の国鉄の失敗は全く考慮しなくていいんでしょうか?」
丸山がすぐ反応した。
「国鉄って、いまのJR?」
「ええ、・・・国鉄は昨夜、西原さんが言ってた消費者余剰の概念を使って、事業自体は赤字であっても、それから国民が受ける便益が膨大だ、という根拠で、赤字を放置し、その赤字が返済不能になって、制度設計それ自体に誤りがあったということで、民営化されました」
と土岐は耳学問を披露した。
白石は黙って聞いている。丸山は知らないことがあるとすぐ質問してくる。
「制度設計のあやまりって、なんですか?」
「西原さんの話は、乗客サイドだけの話でしたけど、日本の国鉄の制度上の誤りは、赤字が発生した場合、政府が自動的に補填したことです」
「でも、西原さんの議論では、乗客の利益がそれを上回ればいいということじゃなかったんじゃないですか?」
と聞く丸山は聴き上手だった。話し手の腰を折ることなく、適切な質問をしてくる。
「問題は輸送サービスを提供する側のモラルなんです。どんなに不効率なかたちで輸送サービスを提供しても、赤字分は政府が補填してくれるということであれば、効率を高めようというモチベーションがなくなるんじゃないですか。西原さんの議論が正論となるためには、たとえ、赤字分を政府が補填するとしても、またどんなに頑張ったとしても赤字にならざるを得ないとしても、精一杯効率的に働くという前提が必要なんです」
「JRの前身の国鉄にはそのモラルがなかった?」


