フィジビリティスタディ

「この国の潜在成長力以上には貨幣供給量を増やさないということでしょう。だから、インフレーションは起こらない」
「でも・・・先進国でも、不況になると中央銀行が金利を下げて、貨幣を増やすんじゃないんですか?」
「不況対策としては、貨幣は経済をさらに悪化させないという程度の効果しかもたないんです。貨幣を増発してもそれが実需に向かわずに、退蔵されるだけという流動性のワナに経済がはまるだけで・・・すいません。マクロの経済政策はわたしの専門じゃないんで、うまく説明できません。・・・でも、多くの国のインフレで実証されているように、貨幣が増発されると確かにインフレになるんです。かつてのメキシコやブラジルやロシアもそうでしたし、戦前のドイツの事例が有名で、最近の事例だと、確かベトナムがそうで、・・・日本の場合だと、第一次オイルショック直前の狂乱物価のことがどこかの教科書にのっていました」

 首都の街中のどこをどう走ったのか、皆目見当がつかなかった。インド料理店は門構えはだけはタージマハルのようなイスラム調の佇まいだった。白い大理石がふんだんに用いられていた。ウエイターはシーク教徒のターバンを頭に巻いていた。白石が予約を入れていたようで、丸山が白石の名を告げると、
〈reserved〉
と書かれたカードが置かれたテーブルに案内された。
「よかった、白石さんはまだきていなかった」
と丸山はおちょぼ口で安堵に頬を緩める。
 テーブルは方形の紫檀で、床の白い大理石とのコントラストが鮮明だった。高い天井にはマリン・ブルーの地に白いアラベスクの紋様が稠密に描かれ、そこから吊るされた首の長い扇風機が鷹揚に回転していた。
 しばらくすると、半そでシャツに蝶ネクタイを締めた白石が現れた。言いようのないちぐはぐな格好に可笑しさがこみ上げてきたが、土岐はじっと堪えた。
 テーブルに着くなり、
「料理はもう注文してあるから・・・」
と白石は当然のように独善的に言う。
「お世話様です」
と丸山は媚へつらうように礼を言う。彼の本心なのか、それとも営業的なトークなのか、截然としない。
「タンドリチキンとナンとヨーグルの簡単なメニューだけど、・・・何か飲みものは?」
と言いながら白石はウエイターを手招きした。土岐は、
「今日の午後はあしたのプレゼンの資料を作成しなければならないんで・・・」