フィジビリティスタディ

「年率10%のインフレが30年も続くという想定は、わが国の基本政策に反する。わが国が過去10数年間、年率平均10%のインフレを放置していたのは、財政赤字を中央銀行引き受けの国債発行で賄わざるを得なかったからだ。今年から、中央銀行総裁がシカゴ大学で博士号をとったマネタリストに代わり、赤字国債を中央銀行は引き受けないことを表明した。実際、10%のインフレ率はそれを支える貨幣増発で実現してきた。わが国の場合は、先進国のような中央銀行の政府からの独立性は必ずしも担保されていないが、それでも大統領は基本的に新中央銀行総裁のその表明を受け入れた。政府が赤字国債を増発すれば、市中金利が上昇し、クラウディング・アウトが起こる。あなたの国のように十分な家計貯蓄があれば別だが、わが国の国民はほとんど貯蓄をしない。いや、アメリカ国民のように借金をしてまで消費をするために貯蓄をしないのではなくて、貯蓄をできるほど所得がないのだ。したがって、わが国は緊縮財政を採らざるを得ない」
と土岐のヒアリングに大きな誤りがないとすれば、シュトゥーバはそんなようなことを話した。土岐は、彼に結論を確認した。
「ということは、今後30数年間、10%のインフレ率が持続するということはありえないということですか」
「そういうことだ」
 傍らで二人の会話を傍聴していた丸山が口を挟んだ。
「でも、資源価格も上昇しているし、3%程度の経済成長も見込めることだから、5%程度のインフレ率だったら、許容範囲内ではないですか?」
「資源価格の上昇はインフレとは違う。たしかに、物価を押し上げるが、コスト・プッシュは一過性のものだ。それに需給がゆるめば、資源価格は下落する局面も出てくる」
とシュトゥーバは丸山に説明するが、
(シビル・エンジニアのお前が何でそんな質問をするのか)
と訝しげな表情を見せる。土岐もたしなめるような目線を丸山に送ったが、それに気付いた素振りは見せなかった。